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ネタ:カソックは血に濡れた(x25)

 
 ステンドグラスを突き破って、翠さんが降ってきた。牧師がヒィィと頭を抱える。今日の兄弟喧嘩はいつもより激しかったらしい。

「大丈夫っすか」
「ああ」

翠さんは何事もなかったかのようにコートの塵を払う。「そこに入ってろ」と言って俺を押し込んだ教会への登場とは思えなかったが、そのことについての言及はないようだ。胸ポケットから煙草を取り出して、震える牧師に振って見せた。

「邪魔するぞ」
「な、なぜこんなことに、」

牧師は目に涙を浮かべている。なぜ、と言われても、たまたまこの地域で翠さんと藍さんが行き合ったという他にさしたる理由はない。突然俺のような男が逃げ込んできたことも、見事なステンドグラスが破壊されたことも、掃除の行き届いた床に灰を落とされていることも、不幸な事故である。「残念でした」としか言いようがないと俺は思ったが、どうやら聖職者サマはその前段階に目を向けていたらしい。両手を組んで、翠さんに向き直った。

「あなたはいったい何をしたのです、懺悔なら聞きましょう」

おぉ、俺も聞けなかったことを。出来たお人だ。

「修繕費も喜んで受けとりましょう」

そして、したたかだ。翠さんはゆっくりと煙を吐き出して、灰色の流れを目で追った。それからもったいぶるような沈黙のあと、

「生憎手持ちが少なくてな」

流れるような動作で撃った。胸に一発、腹に二発。牧師が倒れ込む。

「これで足りるか」

俺に訊かれても。翠さんはガラスを踏み砕きながら扉に向かった。この教会は避難所には向かなかったということなんだろう。相変わらずの運の無さだ。

「懺悔はいいんすか」
「いらん」

呪われているのなら許しを乞うのもひとつの手かと思ったのだが。開け放たれた扉の先には、白い空と強い風。足早に歩く翠さんに遅れをとらないようにするのに気を取られて、俺には分からなかったのだが、

「悔いもなし、許しもいらん、と。まったく何をしたんだ、お義兄さん」

柱の陰から現れたイリスは笑い混じりに呟いて、牧師を軽く蹴り付けた。





#しろた夜の1本かき勝負
お題:カソックは血に濡れた

力尽きたやつ。

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ネタ:夢の痛覚(ゆうはん(仮))


わんらい没供養
・・・・・


 ピリッと痛みを感じて指先に目をやると、案の上、細く切れていた。ゴミ捨て場行きの参考書に小さく抵抗された気がして、らしくもない感傷を覚える。
 自分史上最高に勉強したが、第一志望には受からなかった。まあもともと高すぎる目標ではあったし、正直それほど後悔はしていない。なるようになっただけだ。ただ、

「何サボってるの」

今日もこうして片付けを手伝いに来てくれている友人と別れることになるのが、ほんの少しだけ気にかかる。

「お前は俺がいなくても大丈夫だよな」

なんて気持ちの悪い台詞は口が裂けても言えないが。
 実際大丈夫なのだろうし。
 大丈夫でなければ困るし。

 片付けはお手伝いさんの仕事だったから、などと言い出しそうな顔をしながら友人は、手際よく荷造り紐を切る。運搬係の俺はよっこらしょとそれを積んでいき、女々しい思考を誤魔化すように腰を伸ばした。うーん、結構な量になるな。

「夢破れて山河あり、って感じだな」

「国だよ」

「そうだっけ?」

だから落ちたんだよなどと続けないあたり、やはり彼はいい友人である。


 夢の痛覚



 しかし、まさか野郎2人でドライブに繰り出すような仲になるとは。当時の俺はつゆほども思っていなかった。


バレンタイン(x25;事故CP企画)


ランダム事故CP企画とは:
クジにより強制的にCPを作る誰も得をしない企画。付加要素もランダムで割り当てる。当時の企画者は火のないところに煙を立てる練習にはなるかと思ったなどと供述しており。

※一次創作の二次創作
※あくまでネタ
※非 公 式


・・・・・・・・・・





「イリス×虎次」
付加要素:共闘
(設定→色々あって色々失って、自分や他の何かを守るためにいち早く日常を取り戻した虎次のもとを、遺志を継ぐという最も過酷な道を選んだ虹が度々訪れるようになり……)


「お前に惚れてたら、もっと幸せだったかもしれないな」

 イリスが呟いたのが聞こえてしまった。虎次は一瞬食器を洗う手を止めて、聞き流すべきか考えてから、やはり軽い調子で口を開くことにした。

「そんなの、あんたじゃないじゃないですか」

そうだよな、返された言葉は小さい。やがて寝息が聞こえてきたので、虎次は手を拭って上着を羽織り、静かに部屋を出た。

「寒いな」

 息が白く曇る。
 すぐに消えていった吐息の向こう、ざっと12、13人はいるか。殺気こそ見せていないが、友好的な気配は感じられない。虎次はぐるりと首を回した。最高戦力の一角であったイリスを追ってきた連中相手にどこまでやれるか分からないが、何もしないよりマシだと思った。何もしないで残されるよりマシだと思った。

「あのときと同じ思いはしたくねぇんだよ!」

拳を握って、走る。相手もすぐに虎次を排除対象だと判断したらしい。無駄のない動作で銃を構え、躊躇なく引き金を引いた瞬間、はるか後方に吹き飛んだ。単純にして強力な能力はイリスのもので、目をみはる虎次の肩を掴んだのも間違いなく彼だった。

「下がってろ」
「おい、」
「ありがとな」

爛々と輝く虹の目を笑わせて、イリスは言った。

 あっという間だった。
 再びあっけなく全壊した日常の中にあって、イリスはひどく穏やかな顔をしていた。

「俺もお前と同じだよ。目の前で大事なやつがいなくなるのは、もう、嫌なんだ」
「だから、」
「だから、守らせてくれ」

誓うように落とされた残酷な告白を、虎次は上の空で聞いていた。

 *

虎「分かりやすく言うと?」
虹「守ってやるからずっと俺の近くにいろよ」
虎「えっイヤなんすけど」
虹「だから?」
虎「えっ」
虹「……本当は藍だって俺の腕の中に閉じ込めておけばよかったんだよな。でもそれは出来なかった。藍のためにならないって思ったからだ」
虎「ですよね」
虹「けど、その結果はどうだ。藍は居ない。俺は後悔してる。こんな気持ちになるくらいなら、あいつの気持ちなんか尊重しなければよかったんだ」
虎「あれっ」
虹「だから決めた。今度こそ、お前だけは守ってやるよ。例えそれがお前の幸せにならなかったとしても」
虎「藍さぁああああああん」



・・・・・



「ルシフス×シオン」
付加要素:女体化


「せっかくの男女CPになったのに、ルシフス、あなたってそういうところあるわよね」

 ため息混じりのローズの言葉に、うるさいと不機嫌に答えた声は凛と澄んだ女の声である。なびく銀髪艶やかに、鋭い眼光冷ややかに、スレンダーな美女と化しているのは、帝国陸軍特務中将ルシフスその人である。転がり落ちるような偶然が重なって、現在彼は、女体化している。

「肉も欲も超越して、剣でしか分かりあえない2人の世界がある――、みたいなCPになるんじゃなかったの?!」
「仮にも帝籍に触れる者が品の無い単語を口にするな」
「超次元的な美女にたしなめられても興奮するだけですーー」

歳不相応に舌を出したローズとは対称的に。

「いまの君とじゃ、やる気にならないね」

シオンはルシフスの膝の上に横向きに座ってご機嫌だった。

「私もここまで筋肉量が落ちるとは思わなかった」
「あれ、下りろって言ってる?」
「いや、このままでいい」
「そう」

かすかに表情を和らげて、ルシフスがシオンの黒髪をすく。なんて画だ。

「ぐぅ……百合オーラにあてられる……」

花の匂いがする、ローズは額に手を当てよろめいた。

 *

「シオンさんの好きなタイプは『師匠より強い人』でしたよね。――試しましょうか」
「協力するよ」
シ「怪物は比喩にとどめてよ」



・・・・・



 灰色の壁と鉄格子越しの空だけをずっと見ていた囚人が、解放され、久方ぶりに鏡を見たならば。きっとこんな感情を抱くのではないかと。貧相な想像力でそう思った。
 懐かしい世界。
 あるべき世界だ。
 手を伸ばして触れてみる。冷たい金属の感触ではない。血の通った、人の手のひら。確かめるように指先でなぞり、そっと握ってみる。強く握り返されて少し驚いてしまった。

「、」

名前を呼ぶ。
呼び返される。
意味もなく繰り返してふいに。

「ただいま」
「おかえり」

震えた声がどちらのものだったか、もうそれすらも分からない。――ひとつだ。


「翠×藍」
付加要素:無し


*

虹「……何これ? 何これ? 二次創作なんだよなぁ?!?!」

ネタ:優勝前奇譚(ゆうはん(仮))


 放課後、帰路。俺はあまりの寒さから逃げるようにコンビニに立ち寄って、雑誌を立ち読みしながら外の様子をうかがっていたストーカーに声をかけた。

「雀野ならしばらく来ないぞ」
「えっ、なんで。今日は五時限で当番もないだろ?」

なんで知ってるんだ。
俺は雑誌を手にとってレジに進んだ。ストーカーもとい駒江も後ろについてくる。俺を待っていました、という体を装うためだろう。

「もうすぐ合唱コンクールなんだよ」
「来週末だよな」

なんで知ってるんだ。

「何、まさか雀野、意識高い系お多感女子に囲まれて居残り練習でもさせられてんの?」
「だったら俺も残されてる。……あいつ伴奏者なんだよ。意識高い系お多感女子の練習に付き合ってやってんの」
「は? 伴奏? 雀野、ピアノ弾けんの?!」
「昔から得意」

なんだそれ完璧か出来すぎだろう! と駒江は叫んだ。分からないでもないが、往来で目立つような真似はしないでほしい。

「うわー、何歌うのお前ら」
「『樹氷の街』」
「聞いたことねぇわ」
「寒い歌だよ」

駒江に俺の言葉は聞こえないようで、「いいなぁ聞きてぇなぁ雀野のピアノ。聞かせてくれねぇかなぁ、ダメだろうなぁ、家に押し掛けたら怒られるしなぁ」などと呟いている。

「フツーに頼めばいいじゃねぇか」
「それもそうだな。ケータイ貸して」
「……自分のは」
「着拒されてる」

絶対に貸すものかと思ったが、思ったときにはすでに俺のケータイは駒江の手の中にあった。よどみない手つきでロックを外し、よどみない手つきで雀野の番号を押す。正直少し怖かった。

「もしもし! 俺俺! 俺だけどー……切られた」
「おいふざけんな俺まで着信拒否されんだろ」
「まあまあ」

二度目は会話が成り立ったらしい。駒江は嬉しそうにしながらさりげなく俺から離れた。おい、俺のケータイだぞ。やりとりが聞き取れない絶妙な距離を保たれて待つことしばし。通話を終えて満足げな駒江からケータイを奪還した。

「雀野はなんだって?」
「合唱コンでクラス優勝したら聞かせてくれるって」
「は?」
「頑張ってくれよ栄島くん。俺も頑張るからさ!」

同じクラスの俺はともかく、他校のお前までいったい何を頑張るっていうんだ。そう訊く前に駒江は、「じゃあな!」と走り去ってしまった。ぞくりと背筋が震えたのは寒さのせいに違いない。俺は身を縮ませながら足早に帰路に戻った。

 翌日、隣のクラスの伴奏者が事故に遭ったと、担任が朝礼で告げたとき、俺は思わず雀野の顔を見た。雀野は表情を変えずに窓の外を眺めていた。まさかだよな。偶然だよな。まさかいくら駒江だって。駒江が死んだいまとなっては、真相を確かめることは出来ない。いや、雀野なら知っているかもしれないが、答えてはくれないだろう。あの年の合唱コンクールに俺たちのクラスは優勝して、雀野は最優秀伴奏者賞なんていう舌を噛みそうな名目の賞まで獲った。受賞のときの雀野の顔は忘れてしまったのに、優勝の知らせを聞いたときの駒江の満足げな笑顔は、いまでも妙に記憶に残っている。





#しろた夜の1本かき勝負
お題:優勝前奇譚

ネタ:眠らないモーニング(x25)


 狙撃は嫌いではない。
 ほとんどが待つ時間だから、その分思考の訓練ができる。周囲の状況把握を怠らないようにしながら、翠は頭の中にひとつの箱を作った。

 無地の箱だ。ラベルはあとで付けよう。先に中身を入れる必要がある。記憶でも、想像でもいい。具体的にイメージできるものであればいい。例えば出発前の会話とか。
「年越しにかけての仕事ですか、大変っすね」
「ああ」
「おせち、残しておくんで」
 菜箸を片手に見送りに来た彼の正月料理は、年を追うごとに本格化する。何を目指しているのだろう。楽しみにしたいところだが、期待は出来ない。出汁の匂いの漂う台所からシオンが顔を覗かせた。
「栗は全部粉々にすればいいの?」
「お願いします待ってください」
完成品のほとんどは手伝いをしているつもりのシオンの口に消えるに違いない。まあ、それならそれで構わない。翠は黙って愛車に跨がった。

 音、匂い、気温、気配まで再生できたら、次の箱に移る。次の箱の中身を考えている間も、最初の箱のイメージは消さない。当然、周囲への注意も怠らない。眼下の道を何人が通り過ぎ、どんな人物がどんな服装をしていたか、捉えて記憶に留めている。

 三つ目、四つ目。五つ目の箱は黒かった。すでに中身が入っている。四つ目のイメージに感化された、弟の記憶だった。これは開けない方がいい。

 そう判断してからさらに、箱の数が二桁に達したところで、地平線に光が差した。さっと光ればあとは早い。
 夜明けだ。朝が来る。
 年が明ける。
 翠はすべての箱に蓋をした。これは能力を使いこなすための思考訓練だが、いまは必要ない。必要な瞬間など来なければいいと翠は思うが、そうもいかないであろうことは分かっている。忙しくなる。

 特段祈りを込めることもなく、翠は引き金を引いた。



#しろた夜の1本かき勝負
お題:眠らないモーニング