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新入生をお出迎えしよう編 その2

新入生たちは突然の出来事についていくことができず、ざわめいて周囲を窺った。しかし、周囲には自分と同じような顔つきの生徒しかいない。つまり、誰もこれから何が起きるのかわからないようだ。
それに対して、これから何が起こるのかを知っている側の部長や部員らは意地の悪い笑みを顔に浮かべている。新入生たちの混乱のざわめきを見て、どうやら楽しんでいるようだ。
「はーい、静かに!これから入部テストのルールを説明するよー」
勝手に新入生が出て行かないようにと、部長が扉の前に立っている。その隣に、ほんの数分前まで新入生たちとカードゲームをしていた副部長が立っていた。服装は変わらずディーラー服である。
「ルールは簡単!今あるゲームの中で部員の誰かに勝てれば、新入部員として入部確定だよ!一回勝負だから、頑張ってね」
部長の「勝てば入部できる」という言葉に、新入生たちは一瞬だけやる気を見せた。が、それはすぐに霧散する。
さっきとは打って変わり、何故か周囲の空気が重くなっていた。新入生たちが重たい空気の中で恐る恐る周囲を見回してみれば、今まで温厚な顔つきだった部員たちの目がギラギラとした目つきに変わっている。まるで蛇に睨まれた蛙のように、彼らは身動き1つ取れなかった。
「自分がこれなら勝てそう、って奴で勝負して欲しいな」
部長はかけていた眼鏡を外した。着ていた学ランの胸ポケットに、外した眼鏡をゆっくり入れる。新入生の顔を一人一人とじっくり見てから、にっこりと微笑んだ。
「君らの挑戦に、僕らは全力で応えるから、どうぞよろしくね。さぁ、始めようか楽しいゲームを」
これから演奏を始める指揮者のように、部長が深くお辞儀して見せた。それに伴って、ギラギラした目つきの部員たちがザッと席から立ち上がり、今まで使っていたゲーム綺麗に整え始めた。人生ゲームの紙幣やらはきちんとお札立てに片付けられ、ドンジャラのパイも最初の形に直された。
先程の姿とは打って変わって、もくもくと一身に整理を始める部員たちの姿に、新入生のほとんどは怯えをみせる。けれども怯える目たちの中には、ニヤニヤとした意地の悪い瞳もあった。そう、あのガラの悪そうな生徒たちである。
彼らは部室の隅に集まって何やらこそこそと話し込んでいた。おそらく、乗っ取りの算段だろう。
部員たちがゲームを整え、新入生らがその変わりように目を奪われているうちに、部長がそっと彼らに近づいた。そして、その中の1人の肩を叩く。
「……君たちはこんなゲームよりも、身体を動かすようなゲームの方がいいだろう? 外にぴったりなのを用意したから、移動しようか。詳しい説明は向こうでするけど、君らが何をしてもいいようなゲームを用意したよ。もし君たちが勝ったら、入部を認めるし、君らの好きなようにしてもいいよ」
ガラの悪そうな連中は、部長の言葉を聞いて一層笑みを深くした。「これはいい鴨がやってきた」きっと、そう思っているに違いない。
「さて、どうする? ゲームをするかい?」
「……もちろんするに決まってんだろ。なぁ、お前ら」
リーダー格の1人が同意を求めるように声をかけると、全員が首を振った。
「なら、移動しようか。副部長、ここは君に任せるよ」
副部長はさっきまでいた席に座り、トランプをカットしながら頷いた。
部長がガラの悪い生徒たちを連れて部長を出ていく。彼らが出て行ってすぐに副部長は鍵をかけ直した。幸い、鍵のかかった音は新入生たちの耳には入らなかったようだ。
「山本妹!新入生たちに用紙を配れ!」
「はい、わかりましたー!」
部室の奥から1人の少女が用紙を手に持ち、現れた。セミロングでセーラー服を着ている小顔の少女だ。新入生一人一人に手に持っていた用紙と鉛筆を配りそのたびに、にっこりと笑みを向ける。配り終わると、全員が用紙を手にしていることを確認してから唇を開いた。
「皆さんが手にしてる用紙は、これから部員たちとゲームするにあたって守って欲しい約束事が書いてあります。1つ目は部員たちとゲームして負けたら入部の資格がなくなること。2つ目は今日の出来事は他言無用ってこと。これらとその他こまごまとしたことが書いてある、ただの契約書みたいなものです。まぁ、もうここに皆さんがいらっしゃっているってことはこれを守ってもらわないと部室から出られないんですけどねー」
だから大人しくサインしてくださいね、と彼女は笑った。
その様子を見て、新入生たちが思うことは1つだった。
(あれ?もしかして俺たち、選択間違った??)
最初はただ、興味本位で部活見学に来ただけだった。それなのに今は部活の入部を賭けて、部員と勝負しなければならない状況になっている。そして勝負しなければこの部屋から出られない。明らかにこの異様な状況は、ただの部活見学ではないことは確かだった。けれども誰一人としてこの状況に異を唱えることは、何故かできなかった。

「さて、部員たちの準備もできたみたいだね。用紙にサインして、彼女に渡した人から、かかっておいで」
余裕の表情の副部長がトランプカードの束を静かに机の上に置いた。



新入生たちとゲームをしよう編に続く。
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