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新入生たちとゲームをしよう編 屋内編その1

さて、林の前で彼らが顔を真っ青になっている頃。部室に残った生徒たちも同じく顔を青くしていた。ちなみに、ほとんどが紙を手にしたまま固まっている。
「とりあえず書いて部員の方たちと勝負しないと、ここから出られませんよー?」
――そんなに怖がることないと思うんだけどなぁ、と山本妹は新入生たちを見て思う。彼女は、ゲーム部の部員はただのゲームの好きの人たち、としか思ってはいない。だから、部員の人たちはゲームをして新入生と遊びたいだけなんだろう、という認識しかなかった。――ただゲームをするだけなのに、どうして新入生たちは怖がっているだろう。皆さんいい人たちなのに。山本妹は首を傾げた。
この時点でお気づきだろうが、彼女はあまりゲーム部のことを知らなかった。(むしろ知らされていなかったということが正しい)ゲーム部に所属してはいるが、もっぱら事務仕事が彼女の担当だった。

そんな中で1人の男子学生がブルブルと震えたかと思うと、突然立ち上がった。
「もう、意味わかんね……ちくしょう、やってやる。やってやんよ!勝てばいいんだろ、勝てば!!」
ヤケを起こしたように頭を掻き毟り、キッと副部長を睨んだ。睨まれても副部長の表情は変わらない。うすら笑みすら浮かべている。その様子を見た男子学生は「くっそ、見てろよ」と一言吐き捨て、副部長の待つテーブルに近づく。副部長の、テーブルを挟んで向こう側に立つと、備えつけられた椅子を思いっきり引き寄せて、深く座る。
「僕が得意なのは、カードゲームでね。あいにく手持ちはトランプしかないから、トランプゲームでいいかな? あぁ、その前に用紙を渡してもらえるかい?」
「……ほらよ」
副部長は手渡された紙に名前が書いてあることをさっと確認して、山本妹に渡す。
「はい、確かに受け取りました。こちらが控えです」
彼女は生徒に控えを手渡すついでに、小声で「頑張ってくださいね」と告げる。生徒は話しかけられたことに驚き慌てて彼女を見返すが、その時にはもう彼から遠ざかっていた。
「ゲームの選択肢は君に委ねる。どのトランプゲームを君は選ぶ?」
トランプがテーブルの真ん中に置かれる。生徒は置かれたトランプをじっと見つめてから、口を開けた。
「トランプゲームの中なら、俺は七並べを選ぶぜ」
「……七並べ? それでいいのかな?」
ゆっくりと繰り返された言葉に、生徒は勢いよく頷いた。副部長の余裕そうだった表情が、今はやけに驚いた表情を浮かべている。
「……意外だね。てっきり君ならババ抜きで来るからと思っていたよ」
その一瞬、生徒は目の前の人物が何を言っているのかわからなかった。呆然となった頭はしばらくそのままだったが、時間が経つにつれて思考回路が元に戻れば言われた言葉の意味を理解する。そして口から零れた言葉は最大の嫌悪だった。
「は? あんた、人のこと単純そうな馬鹿だと思ってんの?」
「そんなこと思ってないよ。ただ、2人でトランプゲームをするなら、たいていはババ抜きが主流だろう? だから、僕も君がババ抜きを選ぶと思ってしまったんだよ。これっぽっちも君を馬鹿にはしていないし、思ってもない」
けれど、と彼は言葉を続ける。
「君を勘違いさせてしまったのは申し訳ない。ここに謝罪しよう」
きっちり下げられた頭を見て、ぼそりと「……あんたくっそ真面目なやつってよく言われたことない?」と訊ねる。すると、「よくわかるね。知り合いには毎回言われてる」と返答された。新入生は呆れて物がいえない。
「さて、仕切り直しといこうか。七並べで構わないんだね」
生徒がゆっくりと首を振る。その様子を見て副部長は、テーブルの中央に置いてあったトランプを指さして「カットは君に任せるよ」告げた。

生徒は恐る恐るとカードを手に取った。
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