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新入生を獲得しよう編

学園には新校舎と旧校舎がある。新校舎は3学年の普通教室や特別教室など、必要な教室が揃っている、比較的最近建てられた校舎だ。 それに比べて、旧校舎は学園創立から存在する建物である。教室は学園の部活動に開放しており、彼らの集会場所として今も使われていた。
旧校舎を使う部活動の中で、変人しか揃っていないことで有名な部活があった。
それが、ゲーム部である。 幽霊部員を含めて3年が5人、2年生が5人の計10人と割りかし人数の多い部活である。部員一人一人の個性が強いので、部活の中ではそれほど変人には見えないのだが、クラスの中では敬遠されていることが多い。

変人たちの長である部長が、今日もいつものように自分の席に着く。その顔には眼鏡が、かけられていた。
「ヤァ、みんな!これから新入生獲得の会議をはじめるよ!」(裏声)
どこぞのネズミの王様のような声色で告げられた言葉に、部室内にいたメンバーは顔をしかめた。部員たちは知っていた。部長がこの声色を使うときはロクなことしか起きない。それに、その時には必ずといっていいほど彼がやってくる。部員たちの脳裏には、顔に満面の笑みを浮かべてサムズアップしている、鬼取の顔が浮かんだ。鬼ごっこに関してなら、永遠に出来るとも自負している体力お化けだ。以前の絡まれたときを思い出したのか、体力がない時岡は顔色を青白くしつつ絶望顔を浮かべている。
「とりあえず、2人は確実に獲得しておかないと。俺たち三年が抜けた来年の人数集めが辛くなるからね」
実を言えば、2年生でまともに部室に来ているのは2人しかいない。残りの3人はあまり部室に寄りつかないのだった。(もっとも、そのうち1人は学校にすら来ていないのだが)
急に真面目な顔つきと声色で話し始めた部長の言葉に、部員の緊張感が高まる。たとえ今の代に人数が多くてもこれからも部員が入ってこないと、長年続いた伝統が水の泡になってしまう、と気づいたからでもあった。

――そんな伝統ある部活じゃないけどな。

他の部員が緊張感に包まれている中、副部長は雑誌から目を離さずに心の中で思う。
けれども、部長のその(いつになく真面目な)言葉に心動かされる部員は少なくともいるわけで。特に鬼島(彼はこの部活が最近できたものだと知っているはずだが、どうにも人情劇とかに脆い)や、国木(部活の歴史をロマンチックな展開に妄想しているのだろう、顔が普段よりも厳つい)はやる気になっているようだ。
「とりあえず、目についた奴を片っ端から部室に連れてくればいいんじゃね?」
「……片っ端から連れてきたって、ゲーム好きな奴じゃ意味ないだろ? これだから鬼島は馬鹿って言われるんだよ」
やれやれ、と時岡が首を振った。その顔は人を小馬鹿にするような表情を浮かべている。
そんな時岡の表情を見てしまった鬼島は勢いよく立ちあがった。それによって椅子が音をたて、倒れる。
彼らは仲が良くないのに、何故か席が隣だった。(これは部長の陰謀でもあるのだが)だから、鬼島は倒れた椅子には目を向けず、隣の席にいる時岡を睨みつけた。
「じゃあ、お前はなんかいい案持ってんのかよ!」
「……鬼島よりはマシな案は持ってるけど、お前がいるから言いたくない」
鬼島は自分の席の左に座っている時岡の胸ぐらを掴み、無理矢理立たせた。
「お前の目の前で、また人生ゲーム燃やしてやろうか、あぁ?」
「そんなことするなら、お前を置いて1人で帰る。家まで1人で帰れよ」
鬼のような形相の鬼島に、冷たく時岡は言い放った。
鬼島は極度の方向音痴で、1人で家まで帰ることができなかった。だから、犬猿の仲ではあるが家が隣の時岡といつも一緒に下校している。時岡は「奴の家族から頼まれているから、仕方ない」と、その時だけは自分の感情を割り切っているようだ。目は死んでいたが。
冷たく言い放たれた言葉を途端に、苦々しい顔つきになった鬼島はしぶしぶ掴んでいた時岡の胸ぐらを放した。そして、むしゃくしゃした感情のままに椅子に座り込む。
「言い争いは終わったね。さて、他のみんなはいい案でも浮かんだ?」
2人の言い争いの中でも、我らが部長はマイペースである。
「じゃあ、副部長から」と話をふられ、副部長は雑誌から顔を上げる。そのまま、視線を部長に向けて、無表情のまま口を開く。
「別に無理に勧誘する必要はないんじゃないか?今までなんとかなってたわけだし」
「あぁ、そういえばそうだった。じゃあなんとかなるか!」

結局、副部長の鶴の一言で新入生の勧誘は無理矢理なものではなく、普段の自分たちの姿を見せることになった。
「普段自分たち?」と顔を見合わせた部員らに、部長は「いつも通りに、ここで活動してればいいよ。きっと興味を持った誰かしら覗きにくるだろうし」と告げる。

「それで来てくれた子たちと、一緒にゲームで遊べばいいと思うんだ!」

にっこりと笑みを浮かべる部長に、他の部員は「なるほど、それでいいのか」と何も考えずに納得していく。
その中で副部長だけが「こりゃ、歓迎よりも、トラウマ決定だな」と心の中で思った。手加減できない奴らとゲームするのは、興味をもって来てくれた1年が楽しめないんじゃないのか、と言葉に出さず部長に視線を送れば、彼はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
その笑みを見て、副部長は心の中でまだ見ぬ、やってくるだろう新入生に「……ご愁傷様」と合掌する。
かくして、会議のようなものは終了し、いつものように部員たちは自分の得意なゲームをし始める。小型ゲーム機を操作したり、ボードゲームやカードを自分の机に広げ、相手もなしに1人で進めていく。
「あ、でも国ちゃん!鬼取に近いうちに校内鬼ごっこ開催するって連絡しておいてね!」

――ヤバい。体力つけておかないと……

前回の阿鼻叫喚の様子を思い出し、部屋にいる部員は同じことを心の中で呟いた。せめて、開始10分は息切れせず、ニコニコと背後から追ってくる鬼取から逃げたいものだと思いながら。

新入生をお出迎えしよう編に続く。

2017/12/17 加筆修正

登場人物 2年

登場人物 2年
国木…ボードゲーム全般が得意な2年生。特に麻雀とジャラポン類が得意。
顔は厳ついが、乙女趣味の乙女座。「断じてマッチョではない、細マッチョだ……!」とか言ってるけど、ただのマッチョ。鬼取と同じクラスで、鬼ごっこが開催されるときには呼びに行く係でもある。部活は彼から誘われた。

鬼取…鬼ごっこの天才。部には所属してる、幽霊部員。
国木と同じクラス。部長とは中学からの先輩後輩の仲。顔は整ってるが、頭のネジがゆるい。(ように見せているらしい。部長談)陸上部からスカウトされるくらいに足が速いが、本人はこの部に入って満足してるので、スカウトは拒否している。

修正:2016.09.16

登場人物 3年

登場人物 3年
部長…ゲーム部部長。主にFPSが得意。
他のゲームも得意ではあるが、ソツなくできるという程度。普段は裸眼の冴えない三年生。時折、伊達眼鏡をかけるときもあるがその時は大抵悪巧みを思いついてるとき。また、ネズミの王様の声真似してるときも同様。部内で一番タチが悪い。

副部長…カードゲーム全般が得意。手先が器用なので、イカサマもお手の物。
普段伊達眼鏡をかけている。たまにサングラスなどかけるときもあるが、勝負のときはモノクルをかける。一番勝負とか、ここぞというときはディーラー服+モノクル。部長とは同じクラスで悪友同士。

鬼島…桃鉄が得意な3年生の古株。
桃鉄は得意だが、テレビゲーム版やボード版の人生ゲームが苦手。というか、「人生」の名のつくゲームが苦手。彼の人生は桃鉄であり、人生ゲームは認めてない。人生ゲームが得意な時岡とは犬猿の仲。それなのにクラスは同じ。

時岡…人生ゲームが得意な3年生の古株。
ちなみに、彼の人生ゲームはボードゲームのものを示す。苦手なゲームはカードゲーム。特に神経衰弱が苦手。鬼島とは犬猿の仲だが、家が隣同士の幼馴染。体力はないけど、勉強はできる。(暗記は苦手だが)

殺し屋協定 一話(下)

ふと、

きっと、故郷を恋しく思うのは突然
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不快

幼いころからよく耳に水が入ってかなり不快な思いをしてきました
しかも、なかなか取れないので余計不快感が続く……
今ではそこまで頻繁に入ることはないのですが、やはり入ってしまうと取りにくいのは変わらないままです
ほんと、耳の穴が小さいのがいけないのでしょうか……?
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出会い




『幽霊って本当に存在すると思う?』
遠い過去。そう問いかけた彼女に、自分は答えずにただ苦笑いをこぼした気がする。
悪いが幽霊が本当にいるのだろうかなんて考えたことは一度もない。けれど、心のどこかではきっといるだろうとどこかで期待している自分がいた。この世には理屈では説明できないものがたくさんある。たぶんその中に幽霊も含まれている。もし本当にいるのなら、実際にこの目で見れたなら、きっとこの考えに決着をつけることができるのかもしれないけど。

けど、それは別に今じゃなくてもよかった気がする。



 子どもたちの明るい笑い声が響く昼間の公園。ブランコや滑り台で楽しむ子ども。それを近くで見つめ、ママ友同士で談笑し合う女性たち。それが普通の昼間の公園だった。だがしかし、今日は子どもたちの明るい声は変わりないのだが、女性たちはある一角を指差しひそひそと語り合っていた。
 公園に設置された数あるベンチの中の一つ。入り口近くの大きな木の下、ちょうど木陰に置かれたベンチに暗い雰囲気で灰色のスーツ姿の男が座っていた。ガックリと肩を落とし、顔も地面に向けている。肌はかなり白く、というか袖から出ている手は真っ青に近い。近くを通った人は、彼が小さな声で何かを呟いているのを聞いていた。何を言っているかは分からないが、その様子から明らかに昼の明るい公園には場違いな人物でしかない。
子どもたちを注意深く見ていた母親たちが気付いた時にはもうベンチに座ってあの状態だった。あれから一時間近く経つが、彼は身動き一つせずその場に座ったまま。怪しすぎるのだが、彼女たちは声をかけることはしないで遠く離れて見ていた。ひそひそと「話しかけてみなさいよ」と誰かが告げるのだが、全員心の中ではそんな勇気を持っていないので結局ただのなすりつけ合いになる。子どもが彼の方に近寄らないことを祈りながら、彼女たちは神経をすり減らしていた。

***

 そんな彼女たちの考えを知らない彼は虚ろな目つきで地面を見ていた。視線の先には小さな蟻たちが巣から出たり入ったりと忙しそうに動いている。それを見ながら彼は小さく「……蟻になりたい」と呟いて溜息を零した。
思い出すのは先程見た張り紙の内容。そこにはびっしりと名前が書いてあった。自分の名前を除いて。以前までは下の方に小さく書かれていたのに。必死に探したが今日はどこにも彼の名前は書かれていなかった。

彼の職業は「殺し屋」だ。人から依頼を受けてターゲットを殺す。こう言ってしまえば簡単なのだが、実際は期限内にいかにうまく仕留めるかを考えつつターゲットの身辺も調査しなければならないのでかなり大変だ。
特にターゲットの調査を一人でするのはかなり骨が折れるし依頼が重複することを避けるために殺し屋たちには独自のコミュニティを形成していた。ほとんどの殺し屋たちは何らかの組織に所属している。彼が所属する、いわゆる「会社」と呼ばれている、中規模の組織もそのコミュニティの一つだった。しかし、最近になって突如進出してきた世界的に有名な殺し屋のネットワークに(おそらく上が脅されたのだろが)組み入れられたために、爆発的に人数が増えることになった。しかも古参者と新参者との間にかなりの意見の違いがあるようで、組織内で二大勢力に分かれて不毛な争いをしていた。その一環が、ランク付けという名の張り紙だった。
上位10位以内には二つ名がつけられ、そこから100位以内は一流。200位までは二流。それ以外は三流として張り紙に出される。月終わりに毎回張り出されるが、ほとんど変動をしたことはない。だからか、三流になった者は上位の者たちから「三流」と呼ばれ罵られていた。しかも「三流」としか呼ばれないのだから、自分の持つ名前すら呼ぶことをせずに、ただ「三流」としか呼ばれなくなる。
 彼もまた「三流」と呼ばれる一人なのだが、彼の場合は毎回最下位。三流の中でも一番の無能と囁かれていた。この会社にやってきてから5年ほど経っているが、ほとんど成果を挙げられず、同じ「三流」の者たちからでさえ「名無しの三流(能無し)」と呼ばれるほど。周囲がこの仕事を止めた方が良い、合っていないと遠まわしに伝えるくらい、彼には殺し屋という職業が向いていなかった。

「もういっそ……死んでしまったほうが」
――その方が迷惑とかもうかけないだろうし……
なかなか成果を上げられないので生活は(当然のことだが)かなり困窮していた。もちろん寮のようなものもあったのだが、上の嫌がらせかそれとも無能だからか寮に入ることができなかった。
そこで彼はルームシェアをしてくれる人を探し、その頃とある出来事で出会った男の(所有する)アパートの一室を間借りすることとなった。今もそこで暮らしている。もちろん、家賃は一度としてちゃんと払ったことがない。「別に君を気に入ったから貸しているだけ」と言われ、遠まわしに家賃はいらないと言われていた。けれども、最初の頃は細々と家賃に満たないがお金を渡していた。続けられたのは最初の数か月だけだったが。ちゃんと仕事をやり遂げられないのだから、新たにお金なんて入るわけがない。細々と今まで持っていたお金を全て渡し切った三日後、空腹で倒れた。普段から空腹に日々を過ごしていたが、あの三日間は今思い返してもかなりの生き地獄だった。アパートの男が見つけてくれなかったら、餓死していただろう。それから、男は経済的な面を養ってくれていて、彼は大変肩身が狭い思いをしながらもそれを受けている。
 もし、ここで死んだらこれ以上彼に迷惑をかけることはない。そんな思いが頭を過ぎる。けれどもしかし。ここでこの仕事を辞めるわけにはいかないのだ。せっかく紹介してもらった仕事だし、何よりこの職業でやるべきことがある。
「けど、やっぱり死んだ方がいいのかな」
彼はもう何度目かの溜息を吐いた。

「ねぇ、死ぬんだったら俺にその身体貸してくれない?」

突如聞こえてきた声に、彼は顔を上げる。視界に入ったのはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる半透明の青年。目が合った途端に、声をかけてきた青年は意外そうに驚いた表情を見せた。
「あれ?アンタ俺のこと見えてるの?」
「…………」
「おーい。今ばっちり目が合ったよね?なーんで逸らそうとしてしてんの。バレてるから。アンタが俺のこと見えてるの分かってるから」
「…………まさか……幽霊、ですか?」
思わず言葉が丁寧になる。まさか、そんな非現実的な、と嘘であることに望みをかけて問いかければ、目の前の青年はそれはとても綺麗な微笑みを見せた。ただそこに慈愛の欠片なんて一つもない。スッと自分の手を伸ばすと、未だに現実逃避をしている彼の頭に伸ばした手を向けた。その手は、頭に触れることもない。ただ、触れられずすり抜けている。

「当然だろ。これがどうみたら普通の人間だと思えるんだ?」