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彼が地元に帰るために
引っ越しをしてからはじめての私の家に泊まりに来た。

駅で待ち合わせをして
彼のために用意したコートを渡して
私の大好きな店にごはんにいった。

板長は久しぶりの来店に喜んでくれたのか
食べきれないほどの美しい料理を作ってくれた。
彼は感動しながら口に運び、
いつもより早いペースでお酒を飲んでいた。

彼と並んで食事できることが幸せ

そんなときふいに
もうすぐ子供が生まれる板長が
「ハルちゃん結婚は?彼氏でしょ?」と彼の方を見て言った。

はっきり彼氏だと胸を張って言うことなど
もちろんできなくてまごつくと、
「中学生か!」と板長に笑われた。

「ハルは男をとっかえひっかえだもんなー」と
彼は答えた。

たしかにとっかえひっかえしていたけれど
「結婚」を意識してからというもの
そんな男を作ろうともしなくなった。

言い寄ってくる人は多少なりいるけれど
本当に、昔の自分なんてどこへいったというほどに
そういったことに興味が失せていた。
寂しさを紛らわすための、よく見知った、
なんの後腐れも残らない、
形に収めなくてよい人としか時間をともにしなくなった。

結局のところ、少女だった私は
大人になった今、
彼に精神的な忠誠を下手に誓ってるのかもしれない。

「私は、貴方しかいない」
そう弁解しながら、食事を楽しんだ。
彼は本当に、満足してくれたようだった。

帰り道、久しぶりに腕を組んで歩いた。
そうすると彼がふいに、
「今度から彼氏なのって聞かれたら、
ちゃんと彼氏だって言ってほしい」
そんなことを言ってくれた。

「彼氏って言っていいの?私が?」
そう返すと、
「うん。ちゃんと付き合おう」
なぜかそんなことを返してきた。

「今まで付き合ってると散々言ってこられたような」
「だって男いないと思ったらいつもなんかいるんだもん」

よくわからない言い分だったけれど
彼は正式に私が彼女だと主張した。
既婚者の彼女などよくわからないけれど。

帰宅すると彼は少し仕事をはじめる。
その向かいで彼をながめながら、
「やっと貴方の彼女なのね。長かったわ」
と言ってやると、
「そうだね」
とさらっと答えてくる。

「地元で女つくらないでよ」
そうくぎを刺してみると、
「これから一緒に歩んでいこうというのに
 もうそんなものつくらないよ」
と、当たり前のようにそう言われた。

一緒に歩む

それって何を以て?



次の日空港で見送った。
もちろん去り際は優しいキスをしてくれる。
私はよくわからない感情を持て余したままだ。

そうして、行きつけのお店に晩御飯にいく。
そこにはいつも、
マスターと奥さんとまだ小さな子供がいる。
3人のやり取りを見ているのがずっと微笑ましかったけれど

今日は、異常に憎らしく見えた。

マスターが愛しそうに娘を抱き上げるとき、
抱っこしてあやすとき、
我儘に親に甘える娘を見たとき、

逃げ出したくなるほど、憎かった。


私は彼の子供が欲しい。
でもそれは、彼が私を彼女と言ったくらいで
叶わない夢だ。
愛しい男の遺伝子を持った子供を
我が腕に抱きたい。
そう、本能で思うのがもはや当然のことと思う。
結婚や、出産なんかを考えると。

でも彼は私をビジネスパートナーにしようと考えている。
ビジネスにおいて、孕んだ女は戦力外通告だ。
そんな風に考えている彼が、
私が出産するなどよしとしてくれないだろうと思う。


彼とともに歩んでいきたい。
自分の人生と彼の人生を寄り合わせたい。

でも、
そうすると
私のこの願いは

どうなるのだろう。


私は、彼の望む私である前に
一人の「女」なのに。
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