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149

【ジャーナリング 129】

ギンガムは、部屋の端に転がっていた古びた椅子を、テーブルの前まで運ぶと、
「食べながらでいいからさ、ちょっと話聞いてくれる?」
そう言いながら椅子に座り、腰に提げていた平たい銀の水筒の口を開けて、一口飲んだ。中に入っているのはラム酒である。
「アレか? さっき言ってた仕事の話?」
アッサムがサンドイッチを頬張りながら尋ねる。
「そうそう。君達がここに来て三ヶ月が経って、その間ずっと森から城の見張りをしてもらってたけど、君達が持ってる能力を考えると、そればかりしているのはちょっと勿体ない。そこでだ。君達に特別な仕事を任せようかと思って」
「特別な仕事?」
サモアンが復唱する。
「そう。特別で、超重大な仕事。誰にでも任せられる事じゃないのは確かだね」
「そ、そんなに大変なの?」
「それじゃ、結構危ないヤツっすか?」
プラムワイトは不安そうに、アッサムは注意深く尋ねる。
警戒する二人に対し、ギンガムは穏やかな姿勢を崩さない。
「そうだなぁ。危ないかと言われれば、そういう目に遭う可能性はゼロじゃないね。いざとなったら戦ってもらう必要も出てくるし。でも、君達ならきっと大丈夫だと思う」
「おい、回りくどい事言ってないで、さっさと仕事の内容言え。てめぇは俺らに何をさせたいんだよ」
焦れたジョーカーが眉間に皺を寄せて言う。
そんな相手に、ギンガムは意味深に微笑んだ。
「じゃあ、単刀直入に言おう。君達に頼みたい仕事ってのは、王子の護衛だ」
「王子の護衛!?」
四人の驚きの声が上がる。
「王子って、この国の? 一番偉い人の?」
プラムワイトが確かめる。
「そうそう。ウチでただ一人の王子、エースの専属ボディガードになってほしいんだ」
四人は食べる手を止めてギンガムを凝視している。
この国で最も大切な人物の専属ボディガード。その仕事は、退屈な見張り番に甘んじてきた彼らの想定を遥かに超えていた。



* * *



犬のシモがゆるすぎる。
嬉しさの沸点が低すぎて、家主が帰ってくる度に嬉ションする。なんとかしてくれ。

148

【ジャーナリング 128】

日付を跨ごうとする時間。
拷問部屋の扉が静かにノックされ、鍵の開く音が響いた。
「やぁ、みんな。お待たせ」
部屋に入ってきたのは、バスケットを提げたギンガムだった。
「ギンさん!」
「おっ。お疲れっす」
「あー、やっとご飯来たー」
プラムワイト、アッサム、サモアンがすかさず反応する。ジョーカーは黙って目線を寄越すだけだ。
ギンガムは、部屋の中央に据えられているテーブルにバスケットを置き、
「いやぁ、遅くなってごめんな。お詫びにいっぱい持ってきたから」
と言って、バスケットの中に掛けていた白布を取り去った。
バスケットの中は食料で満たされている。オレンジジュースの瓶ボトル四本が端に刺さり、その隣で紙包みにされている丸い物は、ライ麦パンの肉詰めサンドイッチだ。中央に四本並ぶ小振りの銀の細筒には、温かい豆スープが入っている。他にも、ヤマブドウのスコーンと付け合わせのクリームチーズ、大瓶に詰められた干しリンゴのチップスが収められていた。
四人の食事は、ギンガムが時間の合間を縫って、こっそりとここに運び込んでいる。夕食は、上手く仕事の折りがつけば八時前には持ち込めるが、護衛騎士団長は多忙なので、夜更けになってしまうことも多かった。
「ジュースとスープと、そこのサンドイッチは一人一個ずつだから──」
ギンガムが説明する側から、ジョーカーがぱっと手を伸ばしてサンドイッチの包みを掴み取る。
「俺、お先ー」
「あっジョーカーずるい!」
「俺も俺も!」
「いただきまーす」
ジョーカーをきっかけに、三人が次々とバスケットに手を伸ばし、むしゃむしゃと勢いよく食べ出す。
「ははは。そんな慌てなくてもメシは逃げねぇから、落ち着いて食いな」
話を遮られても、ギンガムは保護者のように穏やかだった。



* * *



こういう食べ物書く時は地味に神経を使う。
世界観を崩さず、いかにもその場所に相応しい食べ物であるように。
素朴だけど、想像するとちょっとおいしそうで、食べてみたくなるような、そんな感じを目指す。

147

【ジャーナリング 127】

日暮れの城。
拷問部屋の扉がひとりでに開いた。
扉が閉まった途端、その手前でフッとプラムワイトとジョーカーが出現する。
「ただいまー」
プラムワイトが、部屋の奥にいるアッサムとサモアンに帰宅を告げて、ジョーカーの肩に置いていた手を下ろす。
「おう、おかえり」
「おかえりー」
ソファに座るアッサムと、プールの水面から顔を覗かせたサモアンが笑って応じる。
プラムワイトが有する透明化の能力は、自身だけでなく、その肌に触れたモノ全てにかかる。何でもかんでも触れていれば透明化させられるわけではなく、一定の上限は存在するが、仲間一人を透明化させるくらいならわけなく出来た。
「なんかあった?」
サモアンが尋ねる。
「特になんも」
プラムワイトが首を振ると、サモアンは「そっかぁ」と腕を組んで首を傾げた。
「なに、何かあってほしかったの?」
「うーん、別にそんなことはないんだけど」
二人が話す傍らで、ジョーカーはアッサムに近づき、
「おら、そこどけ。俺が寝れねぇだろ」
口悪くアッサムを蹴る仕種をする。
「どきませーん。そんな態度デケェ奴の言うことなんか聞きませーん」
アッサムが目をひん剥いて舌を出して、挑発する。
「ンだとテメェ、ふざけたツラしやがって、退かねぇなら力ずくだオラァ!」
「うおっ!?」
言うや否や、ジョーカーはアッサムに飛びつき、勢いでアッサムを床に引きずり落とし、脇腹をくすぐりにかかる。
「あっあぁー! ちょっ、待っ、やめてやめてやめてっあははははっ! おまっ、くすぐんのは無しだろお前!! やめろーっ!」
「へっへっへっへ、逃げろ逃げろー」
のたうち回って抵抗するアッサムと、執拗にまとわりついてアッサムをくすぐり続けるジョーカー。
プラムワイトとサモアンは、じゃれ合う犬のような二人をぼんやりと眺める。
ひとしきり満足すると、ジョーカーはアッサムを解放してやった。アッサムは深い深い溜め息をつく。
「ほら、早くサモと行ってこいよ。ギンガムの野郎にサボってるとか何とか言われんの癪だろ」
朝から夕方まではジョーカーとプラムワイトが見張りをし、夕方から明け方まではアッサムとサモアンが見張りをする。
交代の時間が来たので、ジョーカーとプラムワイトは部屋に戻ってきたのだ。
しかし、アッサムは首を振った。
「いや、それがさ、さっきギンさんがここ来て、今夜は見張り出なくていいって」
「今夜はお休みしていいってさ」
サモアンが話に加わる。
「休みぃ? だったら俺らも休ませろってんだよ」
ジョーカーが不服そうに言う。
するとサモアンが続けて、
「なんかね、あとでみんなに話があるって言ってた」
「話? 話ってなんだよ」
「もしかしたら、今とは違う別の仕事をやれるかもしれないって言ってたな」
アッサムが答える。
「別の仕事って?」
プラムワイトが尋ねる。
「さぁ、詳しく聞く前にギンさん行っちゃったから、何なのかはさっぱり」
「ケッ。今よりつまんねぇ仕事だったら蹴倒してやる」
「こら、そんな乱暴な事言わないの」
すかさずプラムワイトが窘める。
「そうだぞ。ここ追い出されたら、俺達どこにも行く宛ないんだからな。スクラップ街にはもう戻れねぇし」
「でも正直、見張りばっかしてんの退屈だよね。新しい仕事、見張りよりやる気出るやつだったらいいなぁ」
サモアンの言葉は三人も同意だった。



* * *



七時前に帰宅したら、犬と家の中でシャトルラン走をするのが恒例になりつつある。
猫ロスの心傷は未だに癒えないが、犬の元気さにはかなり救われていると思う。
三日月のように立つ尻尾が好きです。

146

【ジャーナリング 126】

ギンガムはカトレアの丘へ向かうべく、街と丘を隔てる森に入る。朽葉の絨毯を踏みしめながら、つらつらと物思いに耽る。
(国王が亡くなられてから、悪戯も何もしなくなって随分静かだったけど、城にカンヅメはさすがに息が詰まったか……月一くらい、どこか遊びに連れてってやればまだ違ったかな)
ギンガムは、エースが生まれた時から、彼の守り役としてその成長を見守ってきた。エースもまた、ギンガムのことを兄のように慕っている。ギンガムにとってエースは、国に仕える騎士として守るべき存在である。だがそれ以上に、何かと目をかけてくれた恩ある先代国王の一人息子であり、我が事のようにその成長を喜んできた弟分でもある。あまり表には出さないようにしているが、エースに対する思い入れは人一倍だった。
冬の気配をまとう風を受けながら森を抜けると、一際高い巨樹に登る。木の幹を蹴って近場の木に飛び、その幹をまた蹴って最初の木に戻り、また蹴り上がって近場の木に移る。そうして軽快に飛び上がっていき、足をかけられる天辺の枝に乗ると、一面に広がるカトレアの丘を見渡す。
(さーて、王子はどこにいるのかな……あ、あれか?)
意外にも、その姿はあっさりと見つかった。
(誰かと一緒にいる? 一体誰だ?)
手元の望遠鏡を取り出して、覗き込む。
ぐんと丘に近づいた視野に飛び込んだのは、かがり火のような──。
「ジョーカー……!?」
意外な人物を認めて、思わず呟く。
エースとジョーカーが、丘のど真ん中で本を広げて一緒に読んでいる。ジョーカーが音読しているのを、横でうんうんと頷きながらエースが聞いており、時折ジョーカーが眉間に皺を寄せて読むのをやめると、エースがすかさず本を指差して何かを言う。暫し二人で会話したかと思えば、またジョーカーは音読を再開する。その繰り返し。
(え、あいつら何してんの? てか、いつの間に仲良くなってんの? どういう経緯で?)
ギンガムは困惑したが、二人の様子を見ているうちに冷静さを取り戻す。
(もしかして、ジョーカーが時々見回りしてくるって持ち場を離れるのは、エースと会うためか?)
それなら、ジョーカーがプラムワイトに見回りの行き先を教えない理由も想像がつく。自分と会うことを他人に口外してはならぬと、王子が口止めしているのだろう。
二人がどういう経緯で知り合ったのかは不明だが、二人とも城で寝起きしている以上、城内で偶然顔を突き合わせる可能性はゼロではない。それで王子から気晴らしに付き合ってほしいと頼まれて、ジョーカーは仕方なく付き合ってやっている、といったところではなかろうか。
あくまで推測の域を出ないが、我ながら的を射ている──ような気がする。
(にしても楽しそうだなぁ、二人共)
護衛騎士団長は、立場を忘れて微笑む。
その目に映る二人の少年は、身の上に縛られないあどけなさで、まぶしく見えた。
(そうか。そういうことなら──)
ギンガムは閃いた。
役不足で欠伸する四人に、うってつけの仕事を。



* * *



ねむいんご。

145

【ジャーナリング 125】

城の裏手、コクーンの森の境界線にて。
「やぁ、ラム君。調子はどう?」
ギンガムは、一本の巨樹を見上げて朗らかに声をかける。
「あ、ギンさん」
すぐさまプラムワイトがひらりと降りてきた。
「どうしたんすか、急に」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってさ。あ、ジョーカーは?」
「いないです」
「いない?」
「はい。暇だからその辺見回りしてくるって、どっかに行ってます」
「どの辺回ってるの?」
「知らないです。言っても教えてくれないんで」
プラムワイトは拗ねた風に頬を軽く膨らませた。
おやおや、とギンガムは心の中で溜め息をつく。王子が抜け出したかと思えば、こちらの問題児もじっとしていてはくれないらしい。
「うーん、そうか。困るなぁ、あんまりここ動いてほしくないんだけど」
「すいません……」
「ははは、ラム君が謝ることじゃないよ。まぁ、ぶっちゃけ君達からすれば役不足だもんなぁ、この仕事」
「役不足?」
「仕事が簡単過ぎる所為で、実力を十分に発揮できないって意味だよ。力を持て余して仕方ないんだろうね、彼は」
「ふぅん……」
「で、本題なんだけど。城の窓から誰かが抜け出したりしてなかった?」
プラムワイトは目を瞬かせた。
「城の窓から?」
「そう。三階くらいのところから。あの辺とか」
ギンガムは城を指差す。
プラムワイトはそちらを見る。
「……や、見てないっすね」
「本当に?」
「はい。あ、どうかな、もしかしたら、おれがちょっと休憩してる時にジョーカーが見てるかもしんない」
「そっか。うーん、ジョーカーといい、アイツといい、お尋ね者が多くていけないな」
「アイツって、窓から抜け出した人?」
「うん。ウチの最重要人物なんだけどね。なかなか言うこと聞いてくれなくて」
「最重要人物?」
「まぁ、見てないならいいや。ありがとう。引き続き見張りを続けて下さい」
「はーい」
ギンガムはカトレアの丘に足を向けた。



* * *



創作だ。創作だ。
文章書け。とにかく書け。
それしかない。
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