※一次創作ブログなので一定期間後非公開にします。
※単語から飛んでいらした方は他のページには行かないでいただけると恥ずかしい思いをせずに済みます。私が。


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 指定時間は二十時五分、指定場所は高層ビル屋上。七月七日の今日、おそらく世界中で一番忙しい一日を過ごしているであろう男に、呼び出された。なんのつもりだとか、なんでわざわざ俺がとか、文句や疑念はいくらでも沸いて出くるが。何を見せつけられるのか、何をさせる気か、己の中に彼の企みを楽しみにしている部分を見つけ、ロムはひとり苦笑しながら外へと続く扉のロックを解除した。

 雨こそ降っていないが、厚い雲に星は隠れ、空気は重く蒸々している。そんな中でもヤツのライブは変わらず盛り上がっているのだろうと、ほぼ無意識に会場の方角へ足を向けた、そのときだ。ばばばばば。規則的な音が徐々に大きくなってくる。なんだ? 戸惑うロムの視界に、突如としてヘリコプターが現れた。

「?!」

思わず姿勢を低くする。驚いて丸くなった彼の目に、さらにとんでもないものが飛び込んだ。

「ロ、ムー!!」

ロムを呼び出した張本人、シュウ☆ゾーが降ってきた。

「なぁああ?!」
「受け止めてね」
「はぁああ?!」

親方ァー! 空からトップアイドルがー!!

言っている場合か。件の女の子は石の力で降りてきたが、アイドルは自由落下してくる。しかもアラサーの成人男子で、ステージ衣装だった。

「ふっ、ざけんな、」

 大仕事を成し遂げて、息を切らせるロムに「筋肉が役に立ったね☆」と笑って、シュウ☆ゾーは手早く髪と衣装を整える。そして早々に完璧な姿に戻った彼は、見るものが見れば卒倒確実の、完璧なウインクをしてみせた。

「織姫に会いに来たよ☆」
「ライブは!」
「ちょうど映像上映からの休憩時間でね」
「だから、って、」
「誕生日のワガママってやつさ☆」
一度やってみたかったんだ。

フフフ、とシュウ☆ゾーは事も無げに言ったが。音楽シーンのトップをひた走る彼が、銀河を越え活躍する彼が、一年に一日しか休みの無い彼が、何万何億に祝われるべき彼が、

──そのワガママを、俺に使うのかよ。

驚きのキャパシティを越えて呆然としてしまったロムを、シュウ☆ゾーはずっと見つめていたかったのだが、残念ながら織姫彦星よろしく一晩を共に過ごすわけにはいかなかった。

「それで、君からのミラクルでプレシャスなメッセージはまだなのかい?」

その直球に、ロムもすぐに状況に気が付いたらしい。ヘリコプターはホバリング状態で待機している。時間は無いのだ。応えねばならない。照れてなどいられない。腹に力を込めて、精一杯の笑顔で。

「おめでとさん!!」
「……ありがと!」

向かい合うアラサーらしからぬアラサーの間に、穏やかな空気が流れたのも束の間。

「で、プレゼントは?」

メイクを直せる時間はあるんだよ、とシュウ☆ゾーがすらり伸びた指先を口許に当ててアイドルスマイルを捨て去り、いやに色っぽく微笑んだので。ロムはまた一瞬言葉に詰まり、しかしすぐさま「バカヤロウ」と目の前の明るい髪をグシャグシャにしてやった。





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(祝)生誕!
パイロット可哀想。