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死について

―千寿―
人はいつか死ぬモノだ。それがいつになるかなんて誰も知らないし、自分自身それを知りたいと思った事もない。いつか、そう遠くない未来に起こるであろう自分の最期を考える事が恐ろしいと人は云うが、起こる事が確定していてそれを恐ろしいと感じるのならばそれまでをどう生きるか、の方が大事なんじゃないか。最期に後悔するかしないのかで言えば断然後者だし、死が恐ろしくないのかと聞かれれば、どうだろう、まだ死んだ事がないから分からない。痛くなければいいな、とは思う。分からないのは体験した事がないからで、何故ならわたしは今生きているから。死に対して思うことといえば、興味以外の何者でもない。だってまだ実感していない。死への恐怖を。いつか来るその時まで、この興味は楽しみに取っておきたいと思う。

―玉波―
死とは恐ろしいものだ。今までそこにあったはずの命が、突然無くなってしまう。感情も表情も、私を彩っていた全てのものが消えてしまう。誰にも平等に訪れる事だとしても、出来ることなら避けたい、たとえ無理だと分かっていても。無理ならせめて、最期くらい幸せに。今までの人生が幸せではなかったという訳ではない、でも私は幸せだと思える最期を迎えたい。例えば、愛する人に見守られながら。共に逝けたらもっと幸せだと思えるかもしれない。途方もない程の死への恐怖も、きっとあの人となら。そう思うけど、私はまだ生きていたい。死ぬのは恐ろしい。私が死ぬのも、あの人が死ぬのも。何故、私は死にたくないのか。守ると決めた、あの人が生きている限り。

―航平―
死は恐ろしいものではあるが、誰もが恐れている訳ではない。今すぐ、何十年後か、なんていつ来るか分からないものに怯えながら過ごす程自分は暇ではないし、先に散った人が待っているのならそれは恐怖ではなく憧れだ。死に憧れているなんて、と人は云うだろう。そんなものに憧れを抱くのなら今すぐ死ねばいい、と。そうではない、まだ逝く理由が無い。理由が無ければ行動出来ないのは自分の性格だ。自分はまだ、死ぬ理由を見付けられていない。その理由を探して生きるのは有意義だと思う。死は平等なものだけれど、死ぬ瞬間くらい自分で決めてみたい。きっと自分の死にたい場所ならとっくの昔に決まっている。あとは、時間だけ。その時が来たら、抗うこと無く流れに任せることにする。

―灯―
ヒトは死ぬものであるのなら、俺はとうにヒトではないのかもしれない。だって、まだ惨めにも生きてしまっている。家族、知人は皆死に絶えるほどの永い時間をまだ旅している。俺の終着点は死だ。死ぬ事で俺はきっと救われる、そう信じている。亡者は死ねた事を喜ぶべきだ。この薄汚れた世界を知らなくて済むのだから。俺は今までいろんなものを見て、たくさんの事を聞いて、ヒトは滅ぶべきだと思った。だから、俺も早く死ぬべきなのだ。待っていて、くれるのだろうか。死は恐ろしいものではない。唯一の救いの手だ。もうこの身は朽ちるべきで、どれだけ足掻いても、どれだけ体を傷付けても止まることのない心の臓を恨みながら生き続けるのにはもう疲れた。いつか死ねる事を祈りながら、俺はまだ生きている。

山花とアザワク/お誘い

身体が軋む音がする。肉体が悲鳴をあげている。毎日毎日トレーニングルームに入り、体力は残したままで今できるだけの限界まで己を高める。そうでもしないと、自分は追い付けないのだ。余計な事を考える暇など無い。追い付けなければ明日死ぬのは自分で、まだ自分はそうなるわけにはいかない、ただそれだけだ。
日課のトレーニングを全て終え、外へ出ると陽は既に地平へと沈みかなりの時間が経っているようだったが、それほど遅くはなかった。初冬の冷たい風が頬を刺す。汗をかいた体が冷えてはいけない、シャワーだけでも浴びて帰ろうかと考えた所で腹の虫が鳴く。自分が空腹を忘れるほどとは一体どれだけ集中していたのだろうか、シャワールームへ向かう道すがら考えてはみたが答えがあるわけでもない。とにかくお腹すいた。考え出すとそれしか考えられなくなるのは昔からの悪い癖だ。体が冷えきらないうちに汗を落とし、荷物を置いた執務室へと足を運んだ。遅くない時間と言えども恐らくもう既に隊員は全員帰ってしまっているだろうから、今日は一人で食事をとる事になるのか、と胸の辺りが少し寒いような、その妙な気分には冬のせいか、と適当な理由を付けて「C」の部屋の扉を開く。やはり中に人の気配はなく、自分の荷物をまとめ帰宅の準備をした。
「おっ、千寿?」
バタバタと賑やかな足音と扉の開く音が聞こえ、それに続き自分を呼ぶ声には聞き覚えがあった。振り向き声の主へと目をやる。
「アザワクさん」
名を呼ぶと、おう、と短い返事が返ってくる。いつも楽しそうな彼は、話をしていても楽な人だ。
「千寿は今帰りか?」
「そうです、アザワクさんは」
「ちょっと忘れ物を、」
そう言いながら自分のデスク周りを探し始める彼。彼のデスクはなんというか、彼らしい物の置き方をしている。そういえば、もしかしたらきっと彼なら。
「あの、アザワクさん。この後暇ですか?良かったら一緒にご飯とか」
「え!?あ、いや暇なんだけど…」
もう晩メシ、食べちゃった…と顔を上げ悲しげに呟くこの人は優しい人なのだろう。申し訳なさそうに眉を下げる姿はなんだか大型犬のようで、少しおかしかった。
「そうなんですか、すみません引き止めてしまって」
「あーいや、メシ、行くよ」
「え?でもご飯もう食べたんじゃ」
自分よりかなり大きめな体躯を見上げると、彼はいつものように楽しそうな表情をしていた。
「まだハラ減ってるから。全然入る」
「…本当に大丈夫なんですか?またモズさんにからかわれますよ」
「モズに…って、デブじゃねえしデブになる予定もねえよ!?でも千寿からメシ誘われたの初めて、だし、その…」
もごもごと話す後半はよく聞き取れなかった。でも、彼はやっぱり優しい人なのだろう。ぼそぼそと何かを呟いている彼に笑みを零し、忘れ物、見つかったんですか、と声をかける。思い出したようにまた探し始める彼の背にありがとうございます、と声をかけ、彼を待つ為にソファへ座った。後で明日の走り込み、一緒に誘ってみようか。
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