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三條航平/無意味な関心

他人に対して興味が持てず、ただ言われた事を繰り返す毎日だった。それは今でも変わることはない。特定の誰かに対する興味を持つ事はなく、自分自身も誰かから関心を向けられるような事はないだろうと思っていた。
その特別であろう想いを告げられたのはつい先日の事で、自分は他の乗組員と同じように接していたつもりだったのだが、一体どこで勘違いを生んでしまったのだろうか。自分にそんな気は更々無かったし、ましてや相手は同性だ。そういう好意の形がある事は知っていてもまさか自分がその対象になろうとは。驚きはしたが、彼はそれなりの覚悟で告げてくれたのだろう、とにかく返事をしなければと思い、その場で「すみません」とだけ伝えた。彼の全てを知っているわけではないし、彼も自分の全てを知りたいわけではないだろう。ただ中途半端のままは嫌だったし、艦内で顔を合わせて気まずくなるような事も避けたかった。その一言で元通りになる事を祈っていた。のに、どうやらやはり思い通りにはいかないらしい。
彼は泣いていた。笑うと年齢よりも幼く見えるのが印象的だった彼が、その表情を歪めて涙を流していた。自分は何か間違ったのだろうか、いや、間違ってなどない。あれで正しかった、はずだ。その気持ちに応えることはできないと告げただけなのだから。
彼が涙を流す意味がわからず、自分にはそんな彼をどうする事もできず、泣きながら立ち尽くす彼にもう一度「すみません」とだけ残し、その場を去った。そうすることしかできなかった。
あれ以来彼には会っていないが、これでよかったのだろう。生きるか死ぬかのこの艦の上で、他人に関心を持つ事は無意味だ。ここに何をしに来ているのか、それは戦争だ。自分達は他人を殺すためにこの場所にいる。そんな事分かっていたし、誰もがそうだと思っていた。
あの時あの場を去った事を後悔はしていないが、彼は今、どうしているだろうか。無意味だと理解していても頭に浮かぶ雑念を振り払い、今日も誰かを殺すために自分は旗を振り続ける。

千寿と玉波/クリスマスの夜

愛しているかいないかで言えばわたしはきっと彼女を愛しているのだろうし、彼女もわたしを愛してくれている。わたしの愛と彼女の愛は意味こそ違うのかもしれないが、それでもこうして帰りを待っていてくれるのならばそれなりの愛を返すべきなのだろう。自分にとっては彼女だけ特別、なのかもしれない。
先程まで賑やかに行われていたクリスマスパーティーは終わりを告げ、片付けまで終えた弟妹や先生たちはそれぞれおやすみなさい、と部屋へ戻った。今この広間にいるのは自分と愛しい妹の2人だけなのだが、大人になってきたと感じる妹も睡魔には勝てなかったらしく、この腕の中ですやすやと寝息を立てていた。プレゼント、まだ渡せてないんだけどな。
こんな場所で寝て風邪をひいてはいけない。以前会った時よりも少し背が伸びた妹を抱きかかえ、彼女の部屋へ向かった。年長でそれなりの年頃であるこの妹へは一人部屋が用意されている、といってもわたしが頼み込んで用意してもらったのだが。彼女らしく質素で整理整頓された部屋に入り、ベッドへと彼女を寝かせた。普段は開かれている美しい瞳が閉じられている事を確認し、枕元へプレゼントを置く。彼女のために職場の人と一緒に選んだものだ。喜んで、くれるだろうか。
愛しい妹の頭を撫でてやると、少しだけ微笑んだように見えた。玉波ちゃん、と静かに名を呼ぶ。
「今年も一緒だよ」
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