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私信

今までの自分はどうだっただろうか。未来に目を向ける事を拒み続け、過去にばかり思い出を刻みそれを良しとしていた。感情の起伏があまり表に出ない方であると自覚はしているが、今日くらいは多少思い切ってみてもいいのかもしれない。
最近、仲良くしてくれる友人たちが出来た。休みの度に遊びに誘ってくれる、休みでなくとも夜は話し込んで日付を越えることもしばしばあった。自分が考えている事を上手く表現出来ない事を知っているその友人たちは、いろんな方法で表現のやり方を教えてくれた。共に悩んでくれる事もあった。共に笑いあった。共にたくさんの話をし、たくさんのものを共有した。思えば些細なきっかけで出会った友人たちであった。少しでも違う場所にいれば出会う事がないはずの人たちだった。友人の友人、そのまた友人。そんな繋がりから始まった自分たちの関係は、これからも続いていくのだろうか。今が楽しいからこその不安は、きっとこの先も残り続けるのだろう。きっと解決する事はない。それだけ、自分は今満ち足りているのだと、その友人たちのおかげで自分は今、未来を見ることが出来ているのだと知ってしまった。過去にばかり囚われていた自分を知ってくれた、それだけで自分がどれだけ救われたのかわからないが、感謝は言葉に出来なかった。
一期一会という言葉があるが、この言葉を意識するようになったのは過去のトラウマが原因だった。今でも引き摺り続けているその恐怖は、確実に自分の心を蝕んでいる。今の人生は一度しかなく、その人生で出会いは一度きりだ。なら今出会った人を大切にするべきだと、それを信じて生きてきた。自分と出会ってくれた全ての人に感謝を、出会う機会をくれた全ての人に感謝を。こんな自分と、たくさんの時間を過ごしてくれた事への感謝を。こんな自分を好きだと言ってくれた。自分を卑下する事を良しとしないその友人たちにはまだまだ頭を抱えることもありそうではあるが、今、この自分を好きだと言ってくれる友人がいるのなら今の自分も嫌いにはなれそうになかった。
私と出会ってくれて、ありがとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。
どんなときも元気で明るい、一緒にいて楽しいあなたたちが大好きです。

お誕生日おめでとう。

煙草と珈琲/杼内一炯

自らの気管支は強い方とは言えなかった。昔から煙たい場所は苦手で、だが社会人ともなればそういう事を言っていられない。まだ、今のところは。
運動は一応人並み以上に出来た、だが体力は人並みだった自分がこんな傭兵部隊に配属されたのには驚いたが、かなり名の知れた企業だ。誰に話しても恥にはならなかった。配属してからは上司や同僚にヘラヘラしていればいいと思っていたが、どうやらそうはいかないらしい。直属の上司は喫煙者、しかも暴力的な奴だった。部下に暴力を振るうことはないが、時折見せる野性的な鋭い眼は奴がいかに好戦的かと主張しているようにも見えた。
仕事柄、個室での面談も定期的に行うが、この上司はいつも独特の煙草の匂いがして好きにはなれなかった。お互いの前に淹れられたまだ湯気の昇る珈琲を眺め、時たま奴と目を合わせながら適当な話をして適当に相槌を打つ。奴の煙草に目をやると、ただ燃やされ消えていくだけの灰が映った。誰の記憶にも残らないこの灰は捨てられるだけなのだ。捨てられてたまるか、俺は捨てられるような人間になるつもりはない。かと言って惨めに生き延びるのも恥晒しだとは思うのだが。この上司は、使えなくなった俺をすぐに捨てるのだろう。いつかそういう日が来るのだろうか。そんな事を考えている内にいつの間にか話は終わっていたようで、目の前に偉そうに座っていた男は席を立った。それに倣ってゴホ、とひとつ咳き込み自らも席を立つ。煙が充満したこの部屋は少し薄暗く、新鮮な空気と水分を身体が欲していているのを感じた。隊室に戻る前に冷えた無糖の珈琲を一気に飲み干す。渇いた喉に痛みを感じるほど染み込むその味は煙の所為だろうか、味わいなど消え失せていた。

運が悪い三條航平(未完)

頭の中で整理をする。一体何が起こっているのか。自分はどうなってしまうのだろうか。改めて考えてもただ流されて生きてきただけの自分の頭では到底理解出来るものではなかった。運が悪かった、と言えばそうなのかもしれない。最初は確かに運が悪かったのだろう。…いや、その次もだ。確かにきっと自分は運が悪い。そうでなければ二度もあんな事、あるはずがない。だって自分はこれでも男だ。そういう性癖の人を責める気も嫌うつもりもないが、まさか自分の周りで、しかも自分が巻き込まれる形で関わりになるとは思わなかった。
一番初めは危険な場所で運悪く迷子になった自分を助けてくれた人に、お礼だと思って、と頼まれれば自分には断ることが出来なかった。自分にとって初めての挿入の感覚、あれはきっと一生忘れることはないのだろうか。例え相手が男性だったとしても。後に職場で顔を合わせた時は心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。彼は誰にも話していなさそうだったが、その辺の石ころのような自分を覚えているのかさえ怪しい態度だった。彼にとってはその程度だったのだろう。
問題はその次の相手だった。旧友の、父。これもまた同じ会社の、直属ではないにしろ上司という立場で。やはり運悪く彼の、そういう気分の時にばったりと出会ってしまった。気付いた時にはどこかのモーテルの部屋に連れて来られていて、煙草を嗜まないはずの自分から立ち上る紫煙をぼうっと見ていたが、咳き込むたびに意識がはっきりする。それを繰り返していた。その後はずっとふわふわとした意識の中で、自分の用途と反した使い方をされているその場所を、冷静に今の状況を考える暇もない程突き上げられていた。あの時の自分はどんな顔をしていたのだろうか。声を殺し、ただされるがままだった自分は、その行為をどう思いながら犯されていたのだろうか。今ではもう思い出しようがない。
二度の行為に関して気持ちが悪いという意識はなかった。相手が男性であれ、結局は自分も欲を吐き出したのだ。もしかすると自分の感覚はおかしいのかもしれない。それを確認するにはどの方法が最善なのか、その方法を知らない程子供という年齢ではない。むしろもういい大人に分類される年齢だと思うのだが、この年齢になるまであの2人以外と性行為(と呼んでいいのか自分にはわからなかった)をした事がないのは問題だと思った。性行為とは子孫を残すための本能だ。なら、相手はどう考えても異性になるはずだった。女性との関係を持ったことがない、実際のところ今現在も女性との恋愛的な関わりが一切ない自分には、自分の感覚を確かめる相手を探さなければならない。丁度今晩の予定も空いている。今日は帰宅の途を外れて、明るい街に出ていいのかもしれない、と仕事中の手を止めることなく考えていた。

玉波

気がつくと、辺り一面がひとつの色で統一されていた。自分自身の特徴であった白い髪と肌も、周りと同じ色になっていた。その色の名を何と呼んでいたのだったか、思い出すのに数秒、いや数分かかったかも知れない。曖昧な意識のままよく目を凝らすと、色の中に何か転がっているものがあった。あれは、ヒトの、───頭?

その色は確か「あか」と呼んだ。私の瞳の色と同じ、あかいいろ。周りを確認すると、あかいいろの中にヒトの頭と、更に腕や足、塊は胴体だろうか。様々な形をしたヒトであったものが散らばっていて、自分の手には固く握り締められていた、大きな刀。あのヒトであったものは誰だ。それを理解するのに時間はかからなかった。脳が拒否をしている。虚ろな目をしてこちらを見ているのは、あのヒトの頭。少し微笑んでいるようにも見えるあの顔は、見たことがある、あの焦げ茶色の瞳を持つヒトは確か、
「────────」

声にならない叫びが聴こえた気がした。それは私の声か、それとも。

(彼女はあかいいろがとても良く似合う)
(私と同じようで違う色、一瞬でも美しいと思ってしまったのは罪なのだろうか)
(私に罰を与えてくれるのは誰)

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三條航平/ケージ隊までの道

今まで義務教育、さらに進学して高校、大学と机に向かって学んできた身としてはデスクワークにも慣れたものである。有名な民間企業の事務への内定も無事に決まり、違う部署ではあれど親しんだ友人がいるとなると安心感は強かった。
この経理課に配属されて数ヶ月、ほぼ毎日のように数字と向き合うなかで上司や同僚と会話をする機会も増え、社内の状況も少しずつ理解してきたわけなのだが。どうやらその友人がいる実地部隊、Cの名を充てがわれた集団は提出書類に不備が多い事で有名なようであった。そして、今日も、である。
その書類を受け取ってしまった自分が処理をしなければならないのだが、どうしても隊長の押印が必要な箇所がいくつか見つかった。
ここの隊長と言えば確か、友人の父親だったか。何度か友人宅へは行ったことがあるが、彼の父とは顔を合わせても挨拶と少しの会話を交わす程度であった。社内ではほぼ顔を合わす機会が無いので向こうは自分の事など覚えてはいないだろうが。
現在の時刻は定時直前、今のうちに連絡しておけば今日の帰りか明日の朝1で経理課に寄ってもらえるかもしれない、と思い隊室へ内線をかけると、やや低めの声面からして隊長自ら受話器を取ったようだった。事情を説明すると「面倒だから今持って来い」と、…そんな気はしていた、が。確実にこれは定時を過ぎるだろう、残業申請を提出し書類をまとめ席を立つ。残業をすることに文句は無いが、重くなりそうな気を引き締めCの執務室へ向かった。
あの隊長は少し苦手、な部類に入る。実地任務はよく出来る人だと聞いているが、余裕のある、含みを持たせたような話し方と、見ただけで息を飲んでしまいそうになるあの瞳を、自分はどうしても直視することが出来なかった。きっとそれは今も変わらない。あの親子は顔つきも目つきもよく似ているのに、父親にだけ、このよくわからない恐怖心のようなものを抱いているのはただの人見知りという理由ではないのだろう。その理由を知りたくはない。知らなくても困らない、はずだ。印を貰うだけ、すぐに終わる。自分に言い聞かせ、少しでも早く終わらせたいが為に社内の通路を足早に駆けた。
執務室の扉を4回ノックする。中からは人の気配がした。
「失礼します、経理課の三條です」
入れ、という低い声に続き扉を開けると、中にはただひとり、隊長である風見桐仁のみが残っていた。

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