何度探そうとしても、初めから答えなど無かった。この御時世では行方不明者など山のように存在する訳で、その一人一人を丁寧に捜索してくれるようなお上ではない事も重々承知していた。だからと言って自分で捜索など出来るわけもなく、ただ月日が流れるだけだった。
自分は彼と同じ場所に立つようになった。立場は違えど、場所は同じだ。同じものを見ることは叶わないが、漸くここまで辿り着いた。何も言わず、人知れず居なくなった彼を責めるつもりなどない。彼の本音、本性を知っていたとしても、だ。この狭い場所では噂などいくらでも手に入る。噂は噂だと割り切ってしまえるような性格であれば、彼を信じたままで送り出せたのかもしれない。前を向く事を止めた自分には、もう彼に合わせる顔など無かった。過去の彼を見ていれば、自分は傷つかずに済むことを覚えてしまっていた。夢や幻であったのなら、そうであったならと何度も願った。彼を思い返し、例えそれが偽りの優しさだったとしても自分は結局それで満足だったのに。
彼から沢山の事を学び、沢山のものをもらった。義弟である自分に向けられた愛情と呼べるものが本物かどうかなど今ではもう確認の仕様が無いし、そんな事は今更どうでもよかった。感情に溝があったとしても彼と過ごした日々だけは偽りなどなく、確かにそれは自分にとって嘘偽りない大切な「毎日」だったのだから。彼が笑って、姉が笑って、自分も楽しくて、それだけで満足だった。実家に帰り、ふと姉の隣で笑っている彼を思い出してしまいそうになるのが怖くて、暫くは姉の顔すら見る事のできない時期もあった。
彼は自分の中で神聖化されてしまうのだろうか。永久に忘れることのない思い出の中で、彼は自分のどういう存在だったのか。義兄弟という、たったそれだけではあるのだが。それだけで充分だ。そう、思い込む事にした。例え何かを失う事になっても、それは彼を失う事にはならない。それでいい。
きっと自分のような存在が彼に出会えたのは奇跡で、例え自分の中で彼という存在が小さくなっていく日が来ても忘れる事は無いのだろう。彼は正しく、自分の道標となったのだから。