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【エストラート・タイタニア】

【絶対であれ】





エストラート・タイタニアは1000機の艦隊に細かい指示を出す。時空戦艦で大軍を操るには、軍事指揮の才能よりも航海士としての才と計算力がものをいう。いかにタイタニア・オ・タイタニアとはいえ、この双方を備え大軍勢を1人で操れる者はそういない。だいたい、300を超えれば指揮官クラスが1人2人と増えて行くものである。

「右翼が少し船間が寄りすぎだな。各艦同士をもう50離させ、30ノットで航行する様に通達しろ」
「畏まりました」

それぞれの艦が発するレーダーで各艦の位置を捉え、念密な指示を出す。少しでもこれを間違えれば戦線が開かれた瞬間に大事故を起こし自滅してしまう。

「よし。美しい陣形になった」

エストラート・タイタニアは海図を暫く見つめてから、展望窓へと視界を移す。

「諸君。本日も美しき勝利をおさめよう」

各艦からの通信が繋がっている事を確認し、エストラート・タイタニアは左手を薙ぎ払う。

「さあ、戦いの幕をファンファーレで飾ろう!」
「ヤッラー!タイタニア・オ・タイタニア」

凛とした声音と共に開かれたこの戦いこそが、ブリュンヒルデ海戦である。





その戦には惹き付けられるものがある。だから、タイタニアの戦争は人々の注目を集めるのだ。
―――カサブランカ外交、メルス・ヴィットリア―――





まるで舞台演出の様な言葉が一斉照射の命だと手信号で読み取った(あるいは熟知している)各艦の艦長達の号令が、まるで輪唱の様に通信を通して聴こえる。次々と放たれる光の矢が敵艦隊を迎え撃つ。エストラートが率いる大艦隊の凄い所は、横一列に並んでいる訳では無いのに、砲撃が前方の味方艦船に当たる事がない。艦船どうしの船間を緻密に計算して、味方同士の事故が起こらないよう細部にまで注意が放たれてる。
星間では未知の敵、時空連邦の空域から訪れてティロン等の辺境地域を荒らして回っている海賊船団も予測以上の一斉砲撃に身動きが取れなくなっている。

「次は輪舞を舞おうか。陣形Bを展開させよう」

その一言だけで幕僚達も艦長達も次の陣形を取る事が出来る。実は、エストラートは積み重ねた戦歴から得た知識で何パターンも戦略を練り予め各艦に伝えてある。これが、エストラートの強みの一つだ。
エストラートの大艦隊が砲撃を続けながら海賊船団を追い込み、遂には円形に囲んでしまう。その状態でさらに砲撃が続くのだから、海賊船団もたまらないだろう。だが、さすが連邦軍の追撃を逃れ星間に辿り着いた海賊船団。円陣型を組んでいるエストラートの艦隊をさらに外から取り囲む。

「そうこなくてはね。命令する機会無く終わったんでは面白くない」

ここまで、エストラートは己の旗艦の自席から全く動いていない。なんなら、リラックスした姿で足を組み悠然と座っている。エストラートは戦局を預かるに際して常に心がけている事がある。どんな戦いでも余裕を持って勝ち、タイタニアの軍力を敵や他方に見せつけること。ギリギリで勝ったんではタイタニアらしくない。そんな勝ち方は雑軍でもできる。あくまで優雅に勝利してこそタイタニアの戦なのだ。だから、エストラートが優雅に振る舞うのもその為である。

「カサブランカのブルネージュを。今日は華やかな香りを楽しみたいな」

エストラートの艦隊をさらに外から囲んだ海賊船団が、今にも砲撃を開始しそうだというのに、エストラートは悠々と部下にワインを注がせる。さっぱりとした色合いの赤を、ゆっくりと一口喉に流し込む。

「悪くはないが残念だ。タイタニアを墜とすなら、囲んですぐ撃つべきだったな。まあ、それでも俺の指揮下じゃあ、10艦程度墜ちるかどうかだったろうが」

陣形も計算も全て頭の中。あくまで確認の為だけにエストラートは、リアルタイムに戦艦の位置が反映されるレーダー版を見る。

「全艦728下方へ、同時に予備軍100は予定通りの配置に付け。下方へ降りた艦は直ちに予備軍の後方にプランDの陣形を」

静かに下された命令が、幕僚から各艦長に、艦長から部下達に通達される。敵艦からのレーダー砲での集中砲火が始まる。だが、エストラートの艦隊は既にその的にはいない。一度放たれたら真っ直ぐ伸びるしかない敵レーダー砲は、さらに真ん中にいた味方艦を攻撃し同士討ち状態になる。

「大軍を扱うリスクを知らないのか?レーダー砲を選択するとは愚かな。俺ならまずあの陣形は敷かないが、敷いたとしても飛距離の短い魚雷で様子を見る」
「なるほど。勉強になります。エストラート公」
「味方を犠牲にしてでも我々を討つ策だったのやも」
「なら、時空を知らないのか?立体概念が無いのか…」
「上下左右前後全てを方位すべきでしたな」
「全くその通りだ」

幕僚達も各々ワイングラスを持ち始め、まるで戦争映画の品評会の様な会話に花を咲かせる。

「連邦軍の包囲網を突破した海賊というか、如何な奇策があるのかと期待したんだがな」

残念だよ。とエストラートは心底肩を竦める。

「結局は数だけでしたね」
「とはいえ、200の軍を叩くのに1000が出てきたらやむ無しなのでは?」
「それもそうか」

すっかり談笑と化している。無論、敵艦の数を承知の上でエストラートは1000基揃えてみせた。ひとつは先程言った通り、連邦軍の包囲網を突破した海賊を警戒して、もうひとつは、星間の海を荒らす愚か者をタイタニアがどう処分するのか見せしめるため。

「さて、カーテンコールだ。残念ながら結末が微妙だったから、せめてカーテンコールは華やかにいこう」

すでにエストラートの大艦隊は敵艦全てを、上下左右前後を取り囲む包囲網の中に置いている。まるで舞台指揮者がタクトを振るように、振り上げた左手を横に凪ぎ払う。「一斉征射!」各艦の艦長の短い命令が輪唱の様に部隊を彩る。エストラートの大艦隊の一斉征射は美しい。敢えて噴煙に色が混ざる魚雷や、カラフルなレーザーを使わせている。故にエストラートが出陣する際の中継は各都市市民の人気も高い。中継を観ている市民の歓声がエストラートにも聴こえる。

「1基でも残ればアンコールにもお答えしたいが………。無理かな?」

敵艦隊の旗艦を捕縛したとの通達がエストラートの耳に届く。

「さあ、各艦最後に派手なご挨拶をして閉幕としよう」

よしきた!とばかりに艦長達が色めき立つ。ここからは、艦長や部隊毎の特色が砲撃に出る。タイタニアの中でもエストラートのみが使う命令「閉幕=なんでもいいからかっこよく攻撃せよ」である。中には無駄な旋回をしながら魚雷を撃ったり、自慢気に最新式の散弾砲を放ったりする艦もある。これの評価によって、次にエストラートから呼ばれる艦長が決まるから、みな“本番”よりもやる気満々である。





―――タイタニアの勝利は絶対なんだ。故に、優雅に劇的に勝たなければならない。―――
タイタニア公爵:エストラート・タイタニア





全ては、ただ1人のタイタニア・オ・アジュマーン・オ・タイタニア(アジュマーンの血族の純血なるタイタニアの人)に勝利を捧げる為に。



タイタニア。
彼等が挑んでいるのは、絶対という強敵である。



END

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皆様如何でしたでしょうか?
人物は緋龍の独断で選びました。シリーズにしたのはどうしてもエストラートさんを書きたかったからです!(きっぱり)

きっとタイタニアがアニメなら緋龍はエストラートが好きだと思うんだ。出来るへたれ万歳!

趣味にお付き合い頂きありがとうございました。
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