【想いを胸に】




「殿下は鼻筋が通っていらっしゃって、とても端整な顔立ちをしている」

窓際に立った長い黒髪を束ねた男が、恍惚としたトーンを声音に乗せる。

「なにより殿下を引き立たせるのは均整の取れた体躯だ。太くも細くもない身体は剣の様にしなやかで美しい」

椅子に座り手遊びに胸元の勲章を弄ぶ金の巻き気の男が、フンと鼻を鳴らす。

「日頃殿下を如何様な目で見ているのか?最も素晴らしきはその頭脳だ。数学では博士号を取得され、化学の分野でも栄誉ある賞を複数いただき、語学も6ヵ国を流暢に操る」
「いいや。殿下の剣技の素晴らしさと言ったらどうだ?今やバレンタイン卿も喝采を送られる程だ」
「とてもお優しく気配りが出来る」
「女にモテる」

いつの間にか、黒髪の男はテーブルを叩いており、金髪の男は立ち上がり互いに顔を付き合わせている。

「時に可愛らしい一面を見せる所がいじらしい」
「なにおう?ならば、あの笑顔だ!殿下が微笑めば男も女もイチコロだ」
「切れ長の瞳はとても理知的ながら色っぽい」
「あの唇はサイコーにエロい!」

夢中で言い合う二人はドアが開かれた事にも気付かない。

「ロイエンタール卿。ミッターマイヤー卿。こんな場所でこっぱずかしい会話をするな。てか、なんの話をしてるんだ」
「ラインハルト殿下。今どちらがより殿下を良く見ているか勝負していた所です」

ドアを静かに閉めた高貴なる人の姿に無言で最高礼を取る黒髪の男に代わり、金髪の男が答える。

「相変わらずのうざさだなお前達は…」

光の加減で銀髪にも見えるアッシュブロンドを片手で抑えて溜め息を溢したラインハルトは、順々に二人を見て親しげに笑いかける。

「オスカー、ヴォルフ。改めて20歳の誕生日おめでとう」
「勿体無きお言葉痛み入ります」
「有り難くも光栄なお言葉感謝いたします」

ラインハルトは窓辺に立ち、並び立つ二人を振り返る。

「俺も後2年後になるが貴兄に追い付き成人する。我が歩む道は皇道である。恐らく、その頂きにて貴兄等のどちらかを我が白蓮(ホワイトロータス)の騎士団長に任じるだろう。だが、我が皇道は消してなだらかなものではない」

父皇が皇位を去れば、今までその権勢に恐れを持っていた反シュロウ派が息を引き返し、牙を向くだろう。

「故に此処で貴兄等の忠誠を確認しておきたい。俺の友人であり頼もしい兄貴分のお前達は、俺と運命を共にしてくれるか?」

ラインハルトの言葉に、二人の男は心得ているさと笑う。

「我が忠誠はこの世に生を受けた時からラインハルト殿下ただ一人のものです」

オスカー・ロイエンタールは跪きラインハルトの左手に口付ける。

「殿下の敵もご不安も全て蹴散らすのが我が努め。国家よりもラインハルト殿下御身に我が全てを捧げましょう」

ヴォルフガング・ミッターマイヤーも跪きラインハルトの右手に口付ける。

「然らば励め」
「「はっ!」」

立ち上がり軍人最敬礼を送る二人にラインハルトは微笑む。

「ありがとう」

ラインハルトが扉へと歩む。ロイエンタールがその扉を開けて頭を垂れる。扉の外に出て歩み出すラインハルトの後ろに二人の腹心の配下達は並び歩く。
彼等の道はやっと始まったばかりだ。






淑やかに濡れた黄金色の髪を掻き上げながら、白く滑らかな肢体を暖かな湯から解放する。

「湯浴みお疲れ様」

高貴なる裸身を晒し腕を広げるだけでその身をバスタオルでくるんだ男をレオンハルトは見上げる。

「レオンハルトの身体、薔薇の香りがする」
「ああ。薔薇の香油を使った」
「いい香りだ」

歳を経るごとに美しさに磨きがかかるルドガーの第一王子が、セティを引き寄せる。甘い唇がセティのそれに重なり、離れると同時に花の様な微笑みが浮かべられる。

「服はあちらのものにしよう。宝石はルビーがいいな。あの服を選んだのは?」
「マーガレッテという女中です」
「なら、その者に着付けの栄誉と褒美を取らせよ」

一連の美しい光景に溜め息を溢していた女中達へ、レオンハルトは一度苦笑してから次々と命を下す。

「髪は軽く纏めるだけにする。香水はいつものやつを淡めに」

命が下ればテキパキと働く女中達に着飾らせられながら、レオンハルトはセティを見る。

「せっかくこの日を迎えられたのに、フェリペの代理とはな」
「代理じゃなくなる日がきっと来る」
「ああ。そうなるよう。過去の過ちを悔い改め、精進しよう」

着替えが終わったレオンハルトをセティは後ろから抱き締める。

「俺がついている。何があっても共にいて、レオンハルトの背中を守ろう」
「ありがとう。セティ」

再び唇が重なる。それは、誓いを灯した誓約の口付けだ。





「シュロウのラインハルトは昨年から。今年からはルドガーのレオンハルトも高貴なる夜会に出席か」

レキサンドルの王子アクアスティードは唇に笑みを刻む。

「大輪の花が一輪増えるな」
「左様ですね殿下」

空になったワイングラスを置き、側付きの者が差し出したマントを手に取る。

「ラインハルト(シュロウ)も、レオンハルト(ルドガー)も、いずれは俺のものだ。特にラインハルトが侍る様を考えるとぞくぞくするな」

マントを羽織り身支度を整えたアクアスティードの目の前の扉が開かれる。




欧州各国の成人した王子が集う高貴なる夜会が、今年も間も無く開かれる。



END

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ちょっと話を聞いてつい書いてしまいました。というわけで金曜日の夜がそうらしいです!