しばらく間が空いてしまいました。
一気に行きます!
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足元が揺れる。
さっきなどは大きな柱がモン目がけて倒れてきて、正直肝が冷えた。
「ウノ!!」
どうにか食堂に辿りつき、扉を蹴破りそうな勢いで中に入る。
しかし返事はない。
モンはすぐに厨房へ足を向けた。
昨日、ウノに「なぜ一度で帰したのか」と問われ、あまりの可愛さについ襲ってしまった場所。
そうだ。可愛いのだ。
すぐにどもってしまう癖も、無意識なのか上目遣いになるところも、
こんな自分にほんの少しでも情けをかけてくれた彼が、
愛おしくて可愛い。
「どこだ!返事をしろォ!!」
吠えるように叫びながら、厨房へ入る。
そこでは、制御を失った火が天井につきそうな勢いで燃えていた。
鍋や、皿が散乱し、割れている。
モンはそれらをガシャガシャ言わせながら奥へ行き、そして、
床に倒れ伏している彼を見つけた。
「ウノ!おい、大丈夫か!?」
駆け寄り、抱き起こす。
頭を打っているなら動かしてはいけないのでは、など、考えつきもしないほど動揺していた。
しかし、転んだだけだったのか、瞼を震わせゆっくりウノが目を開く。
「ん…っ
モン、さん…?」
ほっと息を吐き、モンはウノの頭についた小さな瓦礫や砂を払った。
「出るぞ。この屋敷はじきに崩れる」
「え?!そんな…!」
「理由は後だ。ぺしゃんこになってからじゃ、遅いからな」
慌てるウノの膝に大きな腕を差し入れ持ち上げる。とっさに首に抱きついてきたウノに、こんな時だがモンは嬉しさを感じた。
「裏口はないのか」
「あ、あっちに…、アッ」
煙のせいで視界は良くなかったが、周りの物からウノが方向を示す。
そして、ふとモンに視線を移したとき、彼の向こう側が、つまり天井が崩れるのを見てしまった。
「危ないッ」
「ぅわ!!」
急に飛びついてきたウノに、流石のモンでもバランスを崩す。
後頭部に細い腕が回されるのど、ガラガラという激しい破壊音が聞こえたのは同時だった。
「う、っ…?」
「あ、アレ?」
てっきり、終わったと思ったのだが、思ったより体は軽く。衝撃も痛みもない。
そして二人が恐る恐る目を開ける前に、ウノに取っては聞きなれた、高飛車な声が聞こえた。
「何やってんの!抱き合ってる暇じゃないだろ?」
「スレト…?」
「まったくもー。せっかく生き残ったってのに、先が思いやられるよね」
「ロトワ…、みんなも…?」
まだ状況がわかっていないウノは、突然現れた少年たちにただ首を傾げる。
いや、少年たちもあの紳士と同じく、もはや人の形はしていなかった。
淡く光る、ぼやけた輪郭のようなものが、4つ宙に浮き、ウノとモンを落ちてきた瓦礫から守っている。
「早く行って!これ以上は持ちこたえられないよッ」
「ウノ、来い」
「でも、みんなが…ッ」
再び、モンがウノを抱きかかえる。茫然とするばかりのウノに、いつもの調子の、しかしどこか優しい声が降った。
「僕らの分まで、たくさん生きて、楽しんでね。ウノ」
「待って…!みんなっ」
モンが走り出す。
後ろから「お仲間のこと、ごめんね」と軽い調子で誰かが言ったが、本格的に崩壊を始めた屋敷に、モンは振り向くことができなかった。
「・・・・・・・・・・」
崩れた屋敷を、モンに抱かれたままウノが瞬きも忘れて見入る。
しばらく、モンは声をかけずに待っていた。
やがて小さく、ぽつりとウノが呟く。
「ご、ご主人さま…」
「ウノ…、あの男は…」
真実を話そうとしたモンに、ウノは首を振ってそれを止めた。
そして、掻き消えそうな声で、「知ってます…」と言ったのだ。
ウノは、気付いていた。
紳士が、4人の少年たちが、人であることをやめてしまったことを。
そして、だんだんとその存在が薄く、消えて行きそうになっていっていたことも。
「僕も、いつかそうやって、消えていくと思ってた…
どうして…?
どうして僕を連れだしたの?」
「…わかんねぇさ。お前も昨日そうだったろ?」
涙が溜まっている。モンはいろいろなところがチクチクと痛むのを感じた。
どうすればいいのかわからない。こうして誰かが自分の腕の中にいるなど、いままでなかったのだ。
「ただ、お前に朽ちてほしくなかった。
それだけだ…」
「モン、さん…」
モンの顔は、ほとんどひしゃげているため、表情が解りづらい。しかし彼の耳が、葡萄酒も真っ青なくらいに赤く染まっているのをウノは見た。
何か言おうとしては、口を閉じてしまうモンをじっと見上げて待つ。
モンは、何度か唾を飲み込んだあと、ようやく一言ウノに告げる。
「一緒に来い…」
ひどく緊張しているのは、腕の硬直具合でウノにはわかっているだろう。それはとても恥ずかしかったが、いい返事をもらうまでは離すまいとモンは決めていた。
じっとモンを見ていた視線が外れて、下へ動く。
そして小さく頷いた。
「はい」
どっと、全身に血が巡っていくようだった
「俺のことは、モンでいい。
さん、なんて付けるな」
「はい」
「あと食事は…、
俺からだけにしろ」
「はい…、はい」
「泣くな…」
すん、と鼻を啜って、ウノは目を細めてほほ笑んだ。
その笑顔がまぶしすぎて直視できずに、慌ててモンは上を見上げる。
あっさりと食事を、つまり他の誰かから精をもらうことを禁止したが、思えばなんと丸出しの独占欲だろうとモンは思った。
「だがもし…、俺のことが嫌になったり、使い物にならなくなったら…」
「僕、モンさん以外からは絶対にもらいません!!」
モンが言いきらないうちに、ウノがしがみついてそう言い切った。
どぎまぎしながら、抱きしめ返すと、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
「何十年も経って、モンさんが死んでしまっても、
僕は精が切れて死ぬまで、モンさん以外の精はいりません」
強い決意を込めた言葉に、モンは「そうか」と答えるしかできなかった。
胸がいっぱいすぎて、話せなかったのだ。
こんな自分と何十年も一緒にいてくれるという彼に、自然と抱きしめる腕に力がこもる。
「…行くか」
「はい。モンさん」
呼び方はそうすぐには治らないようだが、今はそれでもいい。
時間はあるのだ。
彼は淫魔である。精が尽きないかぎり、生き続けられるだろう。
ならば長生きをしなければ、とモンは強く思う。
魔物のような男と人間のような淫魔は、固く手を繋いでくずれた洋館を後にした。
〜END〜
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長々と続いてしまいました★
うっく、もうひとエロ入れたかったんだけど、ど、どうして…?!←力不足です
お付き合いありがとうございました!