「蕎麦」という単語で、頭に映像を思い描いてみてください
浮かんだのは、茶色い「田舎蕎麦」ですか、それとも白っぽい「更科蕎麦」でしょうか
実は、同じ質問を釧路市民にすると、多くの人が緑色のお蕎麦を思い描くのです
確かに緑色のお蕎麦というのもありますが、それが最初に浮かぶというのは、少し特異な感じがします
なぜ、釧路の人は「蕎麦」=「緑色」なのか
その謎を解くため、釧路へ…
緑色のお蕎麦の秘密を求めて、訪れたのは「竹老園東家総本店」(以降東家)
釧路市の中心部から車で約10分ほどの場所にある、北海道で最古と言われているお蕎麦屋さんです
「はじまりは、初代である伊藤文平が1874年(明治7年)に小樽ではじめた夜啼き蕎麦屋でした」
と教えてくれるのは、5代目店主のJ・Aさん
小樽でスタートした夜啼き蕎麦屋は函館に移り、やがて1912年(明治45年)に現在の釧路に居を構えます
それにしても、なぜ緑色のお蕎麦が誕生したのでしょう
「発祥は、東京神田の『やぶそば』さんだと言われています
緑色というのは、新蕎麦の色
つまり蕎麦が緑色なら常に新蕎麦を食べている気分になれる、ということで、お客さんに出すようになったらしいですね」
定かではありませんが、と、Aさんは教えてくれました
まるで翡翠のように美しい東家のお蕎麦
なるほど、緑色をしたお蕎麦の由来は分かりました
しかし、新蕎麦でないとすれば、どうやってあの色を出しているのか、ますます謎は深まります
「夜啼き蕎麦の時代から緑色の蕎麦を出していたそうです
当時はかなり試行錯誤していたらしいですね
かつては人工着色料を使っていたこともあったようですが、禁止された昭和40年代からはもちろん一切使用していません
現在は、クロレラの粉末で着色しているんですよ」(Aさん)
クロレラを入れても味が変わらないことから、現在はこの方法で落ち着いているそう
そして、東家で修業した職人さんたちが次々に釧路市内で独立し、緑色のお蕎麦を出すお店が増えていきました
これが、釧路では「蕎麦」=「緑色」とされている所以です
老舗だけに東家ゆかりのお蕎麦屋が釧路市内に多く存在し、東家の暖簾をかけているところは緑色のお蕎麦を出す確率が高い、というわけです
「謎は解けましたか?」と、5代目店主のJ・Aさん
東家の店内、果たして緑色のお蕎麦のお味は?
緑色のお蕎麦にまつわる秘密が明らかになったところで、やはり気になるのはそのお味
さっそくいただいてみると、つるつるとした喉ごしの良さにお箸が進みます
「うちの蕎麦は更科蕎麦
蕎麦の実の芯に近い部分だけを使用します
それが本来の更科蕎麦であり、東家のこだわりでもあるのです」(Aさん)
冷たいお蕎麦の「もり(税込680円)」
1984年(昭和59年)には、皇太子殿下、美智子妃殿下もお召し上がりになったという東家のお蕎麦…
明治のはじめから受け継がれてきたお味が、食べる毎にじんわりと沁みていきます
それにしても、東家の敷地は広大で、立派な庭園が目を引きます
お蕎麦を食べた後は、ゆったりとした気分で散策したくなるようなこの庭園
「実はここ、2代目の竹次郎が、隠居して過ごすための場所だったそうです
ところが蕎麦づくりが忘れられず、結局この場所で営業を開始することになりました」(Aさん)
竹次郎さんが隠居して過ごすという意味で、付いた名前が「竹老園」
それがそのまま店名になったというのですから、竹次郎さんはお茶目な一面を持った職人さんだったようです
夜啼き蕎麦として小樽ではじまったお蕎麦屋さんが、今や釧路のお蕎麦を代表する老舗として、その伝統を脈々と受け継いでいます
釧路を訪れた際は、ぜひ緑色のお蕎麦を堪能してください
広々とした庭園と相まって、悠久の思いに耽ってしまうかもしれませんよ
竹老園東家総本店
●所在地
北海道釧路市柏木町3番19号
●TEL
0154-41-6291
●営業時間
11時〜18時
●定休日
火曜日