肩にもたれかかる 君の重みが消えて
僕は ゆっくりと目が醒めた
日の暮れた 電車内は
外の明かりが少ない所為か まるで鏡に囲まれている様だ
薄目を開けて
正面の窓に映る君を見ていた
すっかり伸びきった
洗い晒しの僕の髪
君が 斜め前からまじまじと見ている
そう言えば
「なんとかしなよ」
って言われていたっけ
以前
日だまりのテラスで
君が 僕の髪を切ってくれた事があった
ちょっとぎこちないけど
君のスラリと長い指が
僕の髪に分け入って ザクザクとすきバサミで整えてくれた
あの時間が
とても とても 楽しくて
根負けした君が
「切ってあげるよ」
と言うのを 待っている
ガタタタン
カーブで揺れたタイミングで
本格的に目が醒めた
「どうしたの?」
僕が訊くと
「見たいから見てる」
そう君は言って
僕を寝かしつける
重なる手
触れ合う脚
すぐ隣に 君の存在を感じながら
僕はふたたび 目を閉じる
もそもそと 君の動く気配で 目を開けると
君は悪戯っぽく微笑みながら 僕の方へ顔を近づけた
唇が触れ合う
愛しくて 離したく無い
でも君は スッと離れる
僕は 両手を伸ばし
離れる様とする君を捕まえて ながい
キスをした
離れて お互いに照れ笑い
その 絶妙なタイミングが嬉しくて
最後に軽く チュッとした
「どうしたの?」
ワザと訊いた
「上着だしたくて」
答えになってない
目的地は
まだ だいぶ先だ
揺れる電車で 君と僕
もう少し
眠ろう
握った手の中に
君の温もりを 感じながら
その時 僕の目に飛び込んで来たのは
半ヘルを被り 目を見開き
かなり焦った顔の彼だった
交差点に近づくと
前走の赤いセダンが 右に避ける仕草をした
見ると 更に前の車が 左折するのに手間取っている
歩行者でも居るのだろうか
直進予定の僕は
赤いセダンに合わせ て 右に避けようとした
ところが そのセダン
いきなり 右から抜くのを止めて 停止した
「行かないのかよ」
合わせ 僕も慌てて停止
後ろが気になったが
原付が一台居ただけのはず
大丈夫
距離はあった
そう思ってルームミラーに目をやると
ゼロ距離に 彼が見えた
「止まれ」
脳フル回転する
彼の片手が バンドルから離れている様に見える
「止まれ無いな… 前に逃げるか」
しかし前との距離も無い
「当たる… 怪我すんなよ
彼の責任でも 人身事故は面倒だ」
ガキュン
ぶつかる音と共に 彼の上体が大きく前のめりになる
リアウィンドウ 割れるかな?
僕の車はバンなので モロに突っ込まれると ウィンドウが割れる事になるが
どうにか 割れずに済んだ
リアゲート
凹んだな…
サイドブレーキを 掛けて
損傷の確認に 降りると
傷はバンパーだけだった
警察を呼び
検証をして
彼に 保険は入って居るかを尋ねると
何故か しどろもどろに警官に 保険の事を聞いている
なんとなく察して
「任意保険は入って居ますか?」
どうにも要領を得ない
未成年?
でも ないらしい
ってか
親なの?
子供居るの?
もうちょっとさぁ
しっかりしてくれ