わたしは何ひとつ変わっていないはずなのに、ここでは何もかもが違って見えた。香り、温度や湿度、空気の重量感、そしてこの纒わり付くような────視線、か。一歩足を踏み入れただけで刺すような、まるで痛みを感じる程の他者からの眼。好奇、或いは侮蔑。あんな小さな女に何が出来るのか、言われなくとも聞こえたような気がした。媚び諂うのは慣れていても屈する事は得意ではない。理不尽な台詞を吐かれるのもうんざりだ。女だ男だと、大人だ子供だと煩い言葉の羅列にも飽きてきた所だった。誰が優れていてどうすれば優位に立てるのか、そろそろはっきりさせても良いのではないか。わたしが誰よりも優れている訳ではない。ただ、ただ単にそう、わたしが彼らより秀でているものを伸ばせば良いだけなのだ。何も言われなくなる程度に。どれだけの長い道程になろうと、例えどちらかが先に物言わぬ屍となったとしても。わたしは、この場所で風になる。