これは悪夢だ。玄関のドアを決して開けてはいけない。開けたら最後、俺は死ぬ。殺される。
「こっしー!」
「コシー!」
インターホンは連打され、ドンドンと少し粗めにノックされる。声で向こうにマーと麻里がいるのがわかっている。恐怖しかない。俺が恐怖に震えているというのに朝霞は呑気に寝ているのが羨ましいやら憎らしいやら。
「それでですよ越谷さん丸の池なんですけど、枠が1時間あるんです、1時間。それでですよ越谷さん丸の池なんですけど、1時間の枠が2日間あって、1時間ですよ。それでですよ越谷さん」
朝霞がうちに押し掛けてきた。すでに半分出来上がっているような状態。今まで洋平の店で飲んでいたらしい。左手にはパンパンのワンショルダーバッグ、右手には酒瓶。コンタクトを外し、カーディガンを脱ぎ散らかして現在に至る。
酒を飲むと朝霞は喋りたがる。相手の前提や事前情報の有無なんかはどうでもいいらしく、とにかく喋りたがる。今も、班に入ったらしい後輩の誕生日を洋平の店で祝ってからここに来ていて、そんなことより丸の池なんだと。
「とだいまー」
「つばちゃんとだえりなさいませ〜」
「一応お出迎えも店員仕様なんですね」
今日はゲンゴローの誕生日。それと昨日がつばちゃん、一昨日が俺の誕生日だったから今日はみんなで飲もうか〜ってことでウチの店に朝霞班全員集合。少し遅れてやってきたつばちゃんは、ここが2軒目。
「洋平、生」
「は〜い、少々お待ちくださ〜い」
「やァー、これが噂のハマちゃんすかァー」
「この騒々しさが“マジパねえ”ですね」
今日はインターフェイスの2年生の集まりだ。それというのも昨日がつばめの誕生日、そして21日がヒロの誕生日だったということで合同誕生会が開催されている。俺の都合(昼放送の収録)で夕方開催になってしまっているんだけども。
いつもなら青女主催のイベントをめんどくさいとサボる律も、今日はヒロの誕生会だからかちゃんと来ている。ヒロの何が3年生方も恐れおののく鬼畜の律をこうまで平和的に動かすのかはわからないけど、律がいる。
「とだいまー」
「つばちゃんとだえり〜」
「たい焼き食べたい人ー!」
「は〜い!」
「洋平、お前は無駄に元気だな。うん、全員だね」
あっ、意外に朝霞先輩も手が上がってる。つばめ先輩がブースにやって来るとおやつの時間になることが多々ある。それは本当にスナック菓子だったり、おだんごだったり、焼き鳥だったり。今日はたい焼きかあ。
紙袋の中から出てきたのは輪ゴムで留められた新聞紙の包み。昔ながらって感じでわくわくする。それをつばめ先輩が開いていくと、5匹のたい焼き。まだあったかいのがわかる。