【SSS】声に出せるうちは余裕

「あー、まただ」
「川北、B-06をブラリ登録だ。それと、B-06に次の利用者を通せ」
「はーい」

 廊下には、今にも食ってかからん勢いの怒鳴り声が響く。今し方自習室から強制退場させられた利用者の人だ。俺は林原さんからの指示通りに淡々と学生証を返し、次に順番待ちしていた人にカードキーを手渡す。
 俺の隣では、利用者でごった返した時に列を整理したりする役のカナコさんがスタンバっている。今は比較的落ち着いているから受付席の業務を見て見習い業務中、という体。
 バイトリーダーの役割を引き継いでからも林原さんは相変わらずキレッキレで、この繁忙期で林原さんにつまみ出された利用者はそこそこいる。カナコさんも最初は戸惑っていたようだけど、今では俺と一緒にまただねー、なんて言って慣れた様子。


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【SSS】泥船ヨーソロー

「いいか佐久間君、俺ら底辺には底辺らしい足掻き方があってだなあ、それはもうなるようになれっつー、そーゆーことよ」
「ボク底辺やった覚えないんですけど」
「いーからここは底辺って言っとけ! 中途半端なことやってたらもらえるノートもプリントもなくなる!」
「しやかてボク底辺と違うんですよ」

 ははーと土下座せんばかりの勢いで、前原先輩がヒロを伴って磐田先輩に集っている。前原先輩が自らを“底辺”と言い切る潔さは非常にすっきりさっぱりしているのだけど、ヒロは何なんだ。
 向島大学でもテスト期間に入り、日頃の成果を試す時が来た。それはいい。俺は普段からやっているし、テスト期間になったからと言って特別慌ててもいないから。それがどうした。ヒロの奴は例によってぐだぐだだ。


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【SSS】触っちゃいけない

「そしたら、要らない物は捨てるから分けといてくれる」
「わかったよ。要る物はどうする?」
「置いといて」

 今日は、ヒロの部屋に呼ばれて引っ越し準備の手伝い。来年度から青浪敬愛大学は一部の学部が新校舎に移転することに決まっている。ヒロの学部も移転の対象になっていて、通学の都合からヒロは引っ越すことに決めた。
 純粋に1年間だけだったら今のアパートに住み続けることも考えたみたいだけど、ヒロの場合は入院で空いた半年の分、卒業が遅れることになっている。残りが1年半だと考えた場合、引っ越してしまった方が楽なのかもしれない、と。


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【SSS】血も涙も枯れ果てる

「で、出たー!?」
「出たとは何だ。人が差し入れ持ってきたのに」
「“最強の助っ人”がロイド君とか! 安部ちゃんがレポートの文字数少なくしてくれると思って楽しみにしてたのに!」
「うるせえ、つべこべ言うな」
「クソッ、鬼! 人殺し!」

 例によって飯野のレポートの面倒を見ている。月末までに2万字のレポートを提出という課題だ。飯野のゴミクズレポートをある程度形にすることで安部ちゃんから出席ボーナスをもらえるというわかりやすい制度を活用中。


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【SSS】戦うならば己の土俵で

公式学年+1年

++++

 すごい瞬間に立ち会っている、気がする。あまりに現実味がなさすぎて、ラジオブースの赤いスタッフジャンパーも着込んでいるのに鳥肌が立つ。隣には、下のテイクアウト丼を抱えたいっちー先輩。
 建物の中も、外もスピーカーは万全。音的には問題なし。あとは、高ピー先輩とタカちゃんが織りなすこの番組を見守るだけでいい。違和感を生じさせているのは、ここが佐藤ゼミのラジオブースであるということだけ。

「噂には聞いてましたけど、本当に衰えてませんね、高ピー先輩。むしろ進化してる」
「そりゃあ、コミュニティで年末まで番組持ってたしね」


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