「おはようございます」
「――って、直クンジャージなんて着てどうしたの?」
「今日は、サークル室の大掃除をします!」
パン、と打たれた手と開会宣言。確かに前々から届いていたメールには、この日は汚れてもいい服で来た方がいいですとは書かれていたけど、ここまで大がかりな掃除大会とは。
「えー!? 年末でもないのにー!」
「年末になったところでやらないだろうからね。さ、みんなで荷物を出そう。紗希先輩、一緒に機材を解体しましょう」
「機材を解体するなら、1年生の子にも見てもらった方がいいと思うよ」
「そうですね。なっちゃん、紗希先輩と一緒に機材を。ボクはその間に重いものを運んでおきます」
サドニナとユキちゃんがわっしょいわっしょいと荷物を外に運び出して行くし、ヒビキは私物整理中。Kちゃんと直クンは部屋の奥の方にある大きな物をせーので持ち上げている。
アタシは1年生ミキサーのなっちゃんと一緒に機材を解体しながら接続についての講習中。こんな機会でもないとなかなかバラバラにはしないから、いい機会で――
「きゃああああっ!」
悲鳴と同時にボスンと落ちる段ボール箱。Kちゃんが叫ぶときは決まってゴキブリの襲来。他のみんなも身構える。なっちゃんもビクビクと震えてる。
床の上でピクリとも動かないその茶色い固まりに、古新聞片手に直クンが近付く。ツンツンと突っつく様子をみんな見守って。死んでいるのか、直クンがもっと近付いて観察したかと思えばそれを摘み上げ。
「ひいいっ! 直先輩ゴキを手掴みで…!」
「これはハロウィンの時にサドニナが仕掛けたおもちゃだね。はいサドニナ、返すよ」
「ふええ〜、いらないですぅ〜!」
一件落着したところで、改めて部屋の中を空っぽにしていく。直クンがあらかじめ周りのサークルさんに了承を取っていたのか、迷惑がられる様子もなく。手回しって大事だ。
ごちゃっとしていた部屋も粗方片付き、まっ平ら。古いホイホイも直クンが片付けてくれた。だけどここからが本番。お掃除シートや雑巾、洗剤なんかがバケツに突っ込まれている。
「壁一面、床一面きれいにしましょう。ボクは換気扇を掃除します」
「直クンカッコイー!」
「ヒビキ先輩、雑巾を持ってください」
マスクとメガネまで装着した直クンはかなりの本格仕様。きっと掃除のお師匠さんからやるなら徹底的にって教え込まれたんだろうな。掃除はお師匠さんに少しでも近付くための必須スキルだろうし。
サドニナが洗剤スプレーで拳銃ごっこをしてKちゃんに叱られてたり、ユキちゃんとなっちゃんがせっせと床を磨いているのは微笑ましい。ヒビキはシートのついたワイパーを手に天井を掃除してる。
アタシはと言えば、今まではあまり開くことのなかった窓を古新聞でピカピカに。きっとこれからは開くことも増えるだろうし。換気は掃除の基本だからね。
「それじゃあ啓子、棚を組もうか」
「了解」
「ヒビキ、2年生は頼もしいね」
「ホントだねえ。掃除したらお腹空いちゃったー」
「――ってヒビキ先輩掃除したばっかりでしかもまだ全部終わってないのにお菓子食べないでください!」
「えー!? 直クンまで圭斗みたいなコト言うのー?」
「うふふ。2年生は頼もしいね、ヒビキ」
end.
++++
ゴキブリの住みにくい環境を作るための大掃除である。青女の掃除は直クンがリーダーだよ!
基本的に1年生はちまくてかわいいみたいなこと。紗希ちゃんがすっかりお母さんみたいだけど強ち間違ってない。
何気にL直成分が含まれている大掃除回。掃除のお師匠さんと言えばもちろんLなのである。