「おはよー」
「いっちー先輩おはよーございまーす!」
「ひいふうみい……おっ、結構揃ってるね」
サークル室に揃う頭数を数えて満足げないっちー先輩。その理由は提げてきた袋が物語る。これは絶対に美味しい物が出て来るパターンのヤツですね、アタシの経験上。
「今日はね、カップケーキを作ってみたんだよね。結構前から流行ってるって言うじゃん、食べてみたくてさ」
「えっ、お店で買ったことは」
「ないよ?」
「食べてみたいから自分で作るとかいっちー先輩クるところまでキてますよね」
元々いっちー先輩という人はミーハーだ。学内を歩く有名人にしてもそうだし、世の中のトレンドにしてもそう。カップケーキは意外にまだ食べてなかったのかと思ったけど、食べるより先に作るって。
箱の中から出てきたのはそれこそお店で売っててもおかしくないレベルのカップケーキで、それを見てみんな驚いてる。やっぱり来るところまで来てるぞこの人、と。
前からいっちー先輩はよくマフィンとかクッキーを作ってみんなに配ってくれてたしそれはそれで美味しかったけど、何だろう、いつもよりも期待が高まる。新しい物だからかな。
「プレーン、チョコレート、抹茶、イチゴね。Lは抹茶な、緑だし」
「だから色で決めんのヤメてくださいよ」
「じゃあ何にすんだよ機材部長、選択権やるから好きなの選べよ」
「抹茶っすけど」
「それならお前、人が最初に勧めてやったの素直に受け取れっつーの」
新旧機材部長のお決まりのネタはさておき、次に選択権をもらったアタシはどれにしようと悩むのだ。全部食べたいっていうのが本音に決まってる。でも1人1コなんだから。
「果林、後ろつかえてんだけど」
「ゴティ急かさないでよ、女子は悩むと長いんですー」
「ナニそんな時ばっか女子ぶってんのお前」
「うっさいよ! 全部食べたいのアタシは!」
うーんうーんと悩んでいると、ゴティだけじゃなくて1年生からもこりゃ決まらないなと呆れたような声が飛ぶ。しょーがないじゃん全部食べたいんだからー。
「選択権お返ししまーす。余ったの食べるんで」
「うん、こうなるってわかってたよね」
「それなら選ばせないでくださいよ〜」
「ゴメンゴメン」
ひとつずつカップケーキが減っていくのを数えながら、運命に委ねるのだ。アタシはどのケーキを食べることが出来るのだろう。いっちー先輩のケーキが不味いワケないからどれでもいいんだけど。
「そうだ果林、果林ってオレンジピールとかレモンピールとか大丈夫だっけ」
「大好きです!」
「試作品が今あるんだけど、試食してくれない? 今出てる4つの味はゴーサインが出たんだけど、柑橘系のは試食してもらう前に慧梨夏が出かけちゃって」
「そういうことなら任せてください!」
試作品を出す前に、いっちー先輩はケーキの上に星を象ったチョコレートを飾ってくれた。他の誰とも違うオレンジがかったケーキは甘いようなほろ苦いような、でも美味しい。
「うん、美味しいですよ」
「よかった。果林はきっと好きだと思ってたんだよね、黄色だし」
「色で決まるんですか?」
「いや、イメージ」
「ですよねー」
他のみんなもそれぞれケーキを食べて満足げ。やっぱりどれも美味しそう。アタシのも美味しいけど、やっぱり最先端のいっちー先輩グルメは全部押さえておきたい。アタシだってミーハーですし。
「ところでいっちー先輩、余ったケーキって」
「食べていいよ。果林がいると思って多めに作ってあるからね」
「そういうことなら心おきなく」
end.
++++
思いがけず2年生がみんな出てきたり、新旧機材部長のやり取りが個人的に良かった。1年生も果林の後ろでわちゃわちゃやってたと思ったらかわいくって
いち氏はミーハーなのもあるし、お菓子作りの本に関しても社割で買えるからね!ネットでも調べられる世の中だしやりたい放題よ。
と言うか慧梨夏に試食させてたのね。ただでさえ慧梨夏は油断すると肥えやすいのにそこに甘い物を多量に与えるとかいち氏w