「浦和さん、聞いたわよ。柳井と大喧嘩をしたそうね」
「あのクソ男が悪いんです。アタシは悪くありません」
学内でばったり会った宇部さんは、相変わらず。目つきはちょっと鋭いけど、ちょっとしたことを気にかけてくれて優しい。3年生が部活を引退して以来だから、彼是ひと月半以上振り。
柳井というのは宇部さんが引退した後に繰り上がりで班長になった2年の男。って言うか新部長。元々あんま好きじゃなかったし、班長になった瞬間マジでって思ったけどなっちゃったモンはしょうがない。そう思ってたよね。
だけど、それまで浸透してた宇部さんのやり方を根本からひっくり返して全部なかったことにして、俺を敬え的なことを言い出したからカチーンとキちゃった。
「宇部さん、どうしてあんな男を班長に指名したんですか?」
「知りたい?」
「教えてもらえるなら」
「幹部とは言え私も部における権限なんてこれっぽっちも持っていなかった、そういうことよ」
「……クソ日高がアイツを班長にした、そういうことですか」
「直接的に言えばそうね」
前の部長だった日高はどこまでもこの部活の癌なんだ。実力も群を抜いてるつばめ先輩をあんな日陰に追いやったり、それまではまとまってた宇部班をひっくり返しに来たり。
放送部は幹部の言うことが絶対。幹部が白と言えば白、黒と言えば黒。そういう世界だとは聞いてきた。だけどいくら幹部でも、世界の王である部長に楯突けば殺される、そういう世界。
「浦和さん、これからどうするの」
「これから?」
「部長に反抗した一般部員の行く先よ。日高の癌が柳井に転移しているとすれば、あなたの行く先はひとつしか残されていないわ。それとも、柳井の班でやって行く? どちらにしても、覚悟をしなさい」
「アタシの行く先……」
「直接的に言う?」
「……はい」
「はみ出し者の流刑地、旧朝霞班よ」
やっぱり、部内である程度地位のある奴に反抗すると、そうなるのかもしれない。アタシはそれまで通りの高いレベルでステージをやりたかっただけなのに。
班に留まるのも異動をするのも自由ではある。だけど、班に留まったところで柳井のやり方が変わるとも、それをアタシが受け入れられるとも思わない。っつーか、あんな奴とステージなんて出来るか!
「ご存知の通り、流刑地だからレベルが低いとか、そういうことは決してないわ。旧朝霞班はプロデューサーとアナウンサーが同時に抜けて、アナ寄りの人員は喉から手が出る程ほど欲しいはずよ」
「ならAPのアタシはうってつけの――」
「そうね。ただ、私の血が流れているあなたを幹部アレルギーの戸田つばめがそう容易く受け入れるとも思えないわ」
「つばめ先輩に受け入れてもらうには、どうしたらいいですか?」
「強い敵意を抱かれていた私にはわからないわ。頭を下げて朝霞に教えを請うか」
「朝霞に頼るのだけは嫌です」
「それが嫌なら源吾郎に賭けなさい」
ただステージをやりたいだけにしては、アタシは試されすぎている気がする。だけど、それを乗り越えればきっと、やりたいステージにたどり着けるはず。
「ああ。そう言えば、旧朝霞班の面々が朝霞に代わって向島インターフェイス放送委員会の定例会に出席するメンバーを捜してたわよ」
「インターフェイス……」
「はみ出し者でも切れない理由にはなるわ」
「それを抜きにしても楽しいです」
「やると言うなら引継の場は設けてあげる」
「お願いします!」
end.
++++
宇部Pが他班の後輩をフルネームで呼ぶのがかなり好き。そんな宇部Pとマリン回。マリンは新しい幹部さんと大喧嘩をしたらしい。
元々星ヶ丘はコロス矢印がいっぱいのびてるグループなんだけど、新しい部長さんが出てきたことによってさらにコロス矢印ががががが
そして宇部Pは星ヶ丘の隠れオカンである。何だかんだ面倒見がいいと言うか甲斐甲斐しい感じの優しい姐さんだなあ