「ただいまース」
「なンだ、冴スか」
「律ー、飲むモン淹れてくれー」
年末年始の帰省ラッシュに揉まれながらどたどたと帰ってきた冴は、カバンの中からスティック包装された飲み物らしき物を出して大袈裟に倒れ込む。
つーか2週に1〜2回ペースで必ず帰って来てるンすから帰省と呼べるほどの帰省でもなさそうスわ。ウチからなら星港大学に行くより向島大学に通う方が正直遠いスからね。
「つかあンま見ないメーカーだな」
「味は美味い。バイト先でも好評だったし。律も飲みたきャ飲んでいースよ」
「じャ、お言葉に甘えて」
居間の床で文字通りごろごろとしている冴は、本当に何もする気配がない。一人暮らしがたまァーに実家に帰ると一様にこうなるモンなんすかねェー。や、冴の場合は「たまに」じゃないけど。
「これ、ココアすか?」
「ココアオレな」
「似たよーなモンじゃねーか」
1回につき2袋使うのがいいと言われ、そのように準備をする。ストーブの上に置かれたヤカンからはうっすらと湯気が出てるけど、まだもうちょっと早い感じ。
ヤカンがベストだろうけど、めんどいンでポットのお湯を使おうとするとまた冴が風情も何もないなどと喚く。なら自分で淹れりゃどーだと刃向かおう物ならギッタギタにされるのがまためんどい。
「律、ファイアーファイアー」
「何言ってンだ、ストーブはこれ以上強くなりやせんぜ」
「マジか!」
「待ってる間に荷物を部屋に入れてくりゃいーんでないスかね」
渋々冴が荷物を抱えてどたどたと階段を上っていく。しばし火の番をしつつヤカンを眺めれば、湯気の勢いも少しずつ増していた。この感じならもーそろそろスかね。
どたどたと階段を下りる音がすれば、お湯の入れ時。冴の分と、自分の分。かき混ぜて出来上がったココアを一口飲めば、甘ったるい。不味くはないし美味いけど、甘い。これはアレンジさせてもらおう。
「りーつー、そろそろお湯沸いたかー?」
「あ、冴のはそこに置いてるスよ」
「どーもー、って何やってんダ?」
「ちょっと自分には甘ったるかったンでコーヒー足してンすわ」
「はあ!? こーのジャンキーが」
「うるっせェわ、カフェモカっつージャンルがあるだろーが」
ドバドバとインスタントコーヒーの粉をココアの中に混ぜていけば、カフェモカもどきの完成。やっぱコーヒーの要素がなきゃなかなか落ちつかネーすわ。
せっかく結構値が張ってるのを分けてやったのに無駄にしやがってと冴はご立腹だけど無駄にはしてないし、それなら最初から値が張るコーヒーをお裾分けいただきたい。
「うん、美味いんじゃねーすか」
「コーヒードバッドバ混ぜただろーが」
「や、ココアの風味は残ってるンで」
「風情も何もない男め」
「だとしたら冴サンが腹ン中で自分の分を全部持ってったんじゃないスかね」
だとしても、冴に風情どうこうがあるようにはとても思えないンで、きっと元々ゼロに近かったんじゃないすかね、とか実際に言おうものならギッタギタにされかねねースわ。
「つか基本的に人から奪う側の冴がバイト先の人に物を振る舞うとかどんな奇跡だ」
「お前までそれを言うな」
「あ、言われてんスね」
end.
++++
ちゃんとやるのは初めての冴律。土田双子のお話。例のココアオレは実家に持ち帰ったらしい冴さんである。
しかし帰ったなりに飲み物淹れてくれーって言うその言い方が春山さんを彷彿する……りっちゃん曰く姉二人はりっちゃん以上にラブ&ピースらしいんでね……
りっちゃんからは「残虐な姉」とまで言われている冴さんですが、情報センターでは残虐さの欠片も見られないのはきっと先輩の所為