「のーさーかーくーん」
年の瀬も例によって家族にハブられた私の行き先は野坂さんのお宅。何なんですか弟カップルは。まだ高校も卒業してない、彼女に至っては中3なのに家族ぐるみの付き合いだなんて、なんて破廉恥な!
ただ、野坂さんのお宅も年末でバタバタしているでしょうし失礼があってはいけませんね。手土産よーし、脱いで畳んだ上着は外側を内に折り込む、よーし。あとは野坂さん本人を叱り飛ばさないだけ。
「ああ、こーた君いらっしゃい」
「これはお母さん。お忙しいときにお邪魔します。こちらつまらないものですが。生菓子ですので冷蔵庫で保管してお早めにお召し上がりください」
「あらあらご丁寧に。ありがとう。上がってー」
お母さんがフミー、と野坂さんを呼ぶ声が高らかに響き、ぺたぺたと階段を下りてくるもさっとした物体。最低限の着替えだけ済ませただけで完っ全に休日モードですねこの人。
さすがにそれはとお母さんに身なりを整えるように促され、もさっとしたイケメン詐欺は洗面所へ。私は通されたリビングで、お母さんが淹れてくれたお茶を前に改めてご挨拶を。
バイト先でもパートのおばちゃんとの話が弾むことが多く、ここでも例に漏れず親年代である野坂さんのお母さんとはきゃっきゃとお喋りを。私、こう見えても年上の女性からのウケは悪くないんですよね。
「おー、こーた。放置プレーお疲れ」
「野坂さんあなた人の顔を見るなり何なんですか、事実ですけど」
「お前も寂しい奴だな、家族からもハブられるとか」
「まるで私が周り全部からハブられてるような誤解を招く言い方はやめなさい」
あー、本当にこのイケメン詐欺は言いたい放題ですね。大体野坂さんだって連絡したらほぼ100%の確率で捕まるんですから十分寂しい男でしょうに。
――とは思うんですけど、一応そこはお母さんの手前黙って飲み込みますよ。野坂さんをボロクソに言えるだけのネタはこれでもかと持ってはいるんですよ。
「よーく聞けこーた、普段お前は俺を暇人みたいに言ってるけどな」
「暇人じゃないですか」
「この冬休み」
「はい」
「俺は!」
「はい」
「何と!」
「はいっ」
「ついに!」
「はいっ!」
「短期バイトをしている!」
「ズコーッ」
何だろう、このがっかり感。バイトをするのは割と普通じゃないですか。ここまで盛り上げたからにはもっとすごいことが飛び出てくるのかと思いきや。しかも短期でしょう。
「ちなみに何のアルバイトを?」
「スーパーだけど、魚屋の裏でいろいろ」
「と言うか確かあなた魚介類全般苦手ですよね」
「だから何を見ても食欲を刺激されない」
「なるほど。それは理に適って――ってそうじゃありませんよ! 大体短期バイトをしようと思い立つなら長期で働こうという気は起きないんですか? ファミレスでも何でも、探せばいろいろあるでしょう」
別に、それでやっていけるのならいいんですけどあなたいつも金がない金がないと言ってるでしょう。それでいてよく買い食いをするんですから。
あーあ、今日はお母さんの前で野坂さんを叱り飛ばさないつもりだったのにまーたやってしまいましたよ。バイトばかりで勉強をしない学生より、バイトもせずに勉強ばかりの野坂さんの方がいいでしょうけどねえ。
「ま、まあ、それも野坂さんなりの努力の結果です、よね…?」
「俺にしては頑張った方だぞ」
「本当、こーた君の爪の垢を煎じてフミに飲ませたいわ」
end.
++++
年の瀬のノサ神。毎度おなじみぐだぐだなヤツ。神崎とノサママはもうツーカーだぞ!
多分年越しそばとかも普通に野坂家に混ざって食べてても何ら違和感がなさそう。ノサパパやらお姉さんにも可愛がられそう。世渡り上手ではあるからな!
ノサカと神崎の掛け合いは油断するとテンポが早く早くなってしまうので何か怖いね!