「はい、こちら節分メニューの恵方巻で〜す」
「確かに米食いたいとは言ったけど、これは……」
ニコニコと笑いながら洋平が出してきたのは、皿を覆い尽くさんばかりの太巻き。本人の言うように最近開発した節分メニューらしいんだけど、って言うか太っ!
テストも終わったことだし、朝霞サンといつものように焼き鳥食うかーっていう流れになったまではよかった。焼き鳥は美味しいしる〜び〜は進むし。
でもそろそろ米食いたいよなって朝霞サンが言ったのを、どこからともなく現れた洋平に嗅ぎつかれて現在に至る。新しいメニューあるから食べて食べて〜と持って来られたのがこれ。
「つか太巻きにしても太くないか」
「そりゃあただの太巻きだったら面白くないしね〜」
「てか洋平、恵方巻ってどう食べるのが正解なの?」
「諸説あるんだけど〜、恵方を向いて目を閉じて、黙って食べるのが一般的かなあ。あと、笑いながら食べるってのもあるよ」
「まあ、食うか。病み上がりだけに願いは無病息災だな」
「俺も食ーべよっと」
諦めて、両手で持つくらいでちょうどの太巻きを構え、西南西に向かっていただきます。太いとは言え長さはそんなでもないから、黙って食べ続けられない程でもない。
黙々と食べ続け、洋平が一番に食べ終わる。それに続くようにアタシが食べ終わった頃、朝霞サンは例によって半分ほどしか食べられていない。まあ、朝霞サンは一口が小さいし長いから。
「つばちゃん、恵方巻って他にも説があってね」
「うん。あっ洋平る〜び〜おかわり」
「はいはい」
朝霞サンは太巻きから口を離したら負けだと思っているのか、それを咥えたままゆっくりと食べ進める。だけど眉間にはうっすら皺が寄るし、苦しそうな息が漏れる。ずっと咥え続けんの疲れるよ絶対。
洋平がビールを持って来てくれるまで、朝霞サンを観察しつつ応援。どんなに苦しくても太巻きを離そうとしないのはすごいと思うけど、酸素足りてる? 肩で息してるように見えるけど。
「はーいつばちゃんる〜び〜お待たせ〜」
「あんがとー。で、恵方巻の他の説って?」
「そうだった。具のコトになるんだけど、七福神にちなんだ7種類の具材で福を巻き込むとか、キュウリや桜でんぶなんかを青鬼赤鬼に見立てて鬼退治〜なんて説もあるね〜」
「なるほど、鬼退治か」
チラリと朝霞サンに目をやれば、相変わらず苦しみながら太巻きを食べ進めている。さっきよりもちょっと短くなったかな? なるほど、鬼退治か。鬼の朝霞Pサマが死にかけてるのはそういうことか。
「朝霞クーン、お冷やがいいー? それともお茶ー? 温かいお茶なら今のうちに入れとかなきゃだし〜、あっは〜いお茶ね〜」
「朝霞サンがんばれー」
太さ設定間違えたかな〜なんて、洋平は反省してるのかしてないのか。アタシもちょっと苦しかったけど食べれたし、食べれないほどではない。朝霞サンの一口がちっちゃすぎるだけで。
そして気になって恵方巻のあれこれを調べてみると、こんな文言が。「食べ終わるまで黙っているなら休憩を挟んでも大丈夫」と。それも諸説紛々のひとつだろうけど……黙っとくか、面白いし。
「つばちゃん、よっぽどだったらポッキーゲームの要領で反対側から攻めてあげて〜、ちゅーしてもいーよ〜」
「は? お前がやれよ! てか朝霞サンも、ステージ前の体で食べれない? ほらピッチ上げて〜」
「んむっ、む〜!」
朝霞サンの後頭部を押さえて、太巻きを持つ左手を介助。それいっちに、いっちに、と食べるペースを作ってあげて。それでも目を開けないし、だんまりを決め込んだまま。よっぽど無病息災をお祈りしたいんだなあ。
「やれば出来る! やれば出来る! 逆境に負けないのが朝霞P!」
「――ってつばちゃん無理に押し込んじゃダメだって! わ〜、朝霞クン生きてる!?」
「げほっ、げほっ! 戸田、お前なあ……」
「ゴメン朝霞サン、女子より食べ方女子っぽいからイライラした。あと涙目で睨み上げられてもね〜」
「つばちゃん、ステージが絡まない時の朝霞クンは鬼ジャないからね〜」
end.
++++
つばちゃんが段々朝霞Pにも遠慮がなくなってきた件。何だよ「やれば出来る」って。そんなこんなで朝霞Pが病み上がりの星ヶ丘節分回。
恵方巻には諸説あるけど、このテの伝統って割とダジャレとか語呂合わせみたいなのが由来なのも多くてなんだかほっとする。
ところでここのお店の洋平ちゃん割ってどれっくらい利くんだろう。でも今回の恵方巻に関しては実験的要素もあったから洋平ちゃん持ちだろうね!