「ぎゃ、ぎゃああああ!」
サークル棟に響く悲鳴。うちはそれをサークル室でりっちゃん先輩と一緒に聞いた。こんな時期だし他にこんな建物に来る人は多分いない。閑散とした廊下と階段に響き渡ったそれにりっちゃん先輩が動じる気配もなく。
「りっちゃん先輩、事件のニオイですよッ!」
「や、声の感じから言って野坂っしょ。ほっときャいースよ例によって遅刻してきやがって」
「ちょっと見てきますッ!」
声のした方に行ってみると、2年生の先輩たちがわあわあと楽しそうにしている。と言うかこの時点で3人とも遅刻してるんだけどりっちゃん先輩はお怒りですよー。
野坂先輩がこーた先輩の後ろに隠れてちっちゃくなっている。それをヒロ先輩が責めているし、こーた先輩も野坂先輩にお説教のトーン。さっきの悲鳴はきっと野坂先輩だな。
「あの、おはようございます先輩たち。何かあったんですか?」
「奈々、悪いことは言わないからこの現場は見ない方がいいですよ」
「そーやよ。奈々は絶対に見ん方がええわ」
「いや、逆に奈々なら見慣れてるだろいやこれマジでない。俺夕飯食えないかも」
野坂先輩がご飯を食べれなくなるというのがよっぽどの衝撃だったのかなあと、うちもちょっと怖い。こーた先輩もヒロ先輩も、珍しく優しいし。うん、よっぽどなのかもしれない。
「ああ、こんな時菜月先輩か律がいれば…!」
「ノサカの役立たず!」
「野坂さん何いない人に縋ろうとしてるんですか」
「りっちゃん先輩はサークル室にいますけど、どうかしたんですか?」
「奈々、さっき言ったでしょう見ない方がいいと。先輩の言うことは聞きなさい」
「うちだけ仲間はずれにしないでくださいよこーた先輩ッ!」
それでも好奇心は止められない。先輩たちが止めるのを聞かず、野坂先輩がふるふると力なく指さした方を覗き込む。このとき、うちはまだ知らなかったのです。先輩たちの言うことをちゃんと聞いておくべきだったと。
「きゃああああ!」
バラバラに散らばった鳥の羽。明らかにちょっと飛んで抜け落ちたような量でもなく、よーく見ると……見たくない見たくない!
「鳥っ、トリっ」
「ほーら言わんこっちゃない」
「こーた先輩鳥ッ!」
「こーた早よ片付けてよ!」
「こーた、早く律を呼んで来い!」
「ちょっと同時に喋らないでくださいよ聞き取れないじゃないですか特にそこのイケメン詐欺」
相変わらずうちと野坂先輩、そしてヒロ先輩はこーた先輩にわあわあと詰め寄るだけ。それを取りまとめるこーた先輩も手一杯。でも野坂先輩とヒロ先輩は使えな……こーた先輩の方が今は頼りになるしッ!
「奈々の悲鳴が聞こえたから来てみれば、自分にナニさせる気なんスかねェー」
「りっちゃん先輩助けてくださいッ!」
「律、お前だけが頼りだ!」
「さすがりっちゃんやよ!」
「まだナンもしてネっすわ」
例の場所を指さすと、りっちゃん先輩はしャーねェなーとため息交じりにロビーの方へ。戻って来たその手には、ホウキとチリトリ。それを先輩たちの輪に放り込んで一言。遅刻のペナルティっつーコトで、後は頼ンだ。
うちは呼ばれるままにりっちゃん先輩についてサークル室へと舞い戻る。うちも今日はご飯食べれないなあ。廊下には、相変わらず3人の先輩がわあわあと楽しそうにじゃんけんをしている声が聞こえてくる。
「やァー、やってるやってらァー」
end.
++++
久々にノサカがヘタレてるいい感じの悲鳴回。ちゃんと描写するとグロくなってしまうので敢えて何があったのかは詳しく触れませんでした。グロはちょっと苦手。
2年生の3人が来るまではサークル室でりっちゃんと奈々がただただあの3人を待ってたのだと思うとその光景もいつかやってみたいなあと思いつつ。
こういう現場の片付けは、意外と菜月さんがさらりとやってくれたりする。虫とかも大丈夫だし。でも虫が大丈夫っていうのの話、夏にやろうとしたらタイミングがなくて以下略