「アーユーレディー!? サドニナオンステージの時間だよー!」
サークル室から漏れてきたのは、縁起でもないキンキンのアニメ声。今日は来年の植物園イベントに向けた話し合いの体でサークルが開かれる、はずなのに。
途中で鉢合わせて一緒になった沙都子も、これには苦笑い。出来れば他人の振りをしたい。だけど今すぐやめさせたいというのが啓子の主張。これが他のサークルさんの迷惑になっているのは確実。
「啓子、どうする?」
「やめさせるに決まってるでしょ何の気なの機材私物化して」
「啓子、頑張って」
「Kちゃんはよくやるなあ」
「アンタたちが甘いからサドニナがつけあがるんでしょ」
ボクたちも甘いと思うけど、啓子は少し厳しすぎる。サドニナのようなタイプの子にはただ普通に叱ったところで効果は薄いような気がする。何か、効果的な操縦法があればいいんだろうけど。
向島のこーたがサドニナをうまく操縦しているという話は聞くけど、それはサドニナと同じサブカルの土俵に上がることの出来るこーただからこそだろうし、同じ文化を共有し得ないボクらにはとても難しい。
「サードーニーナァー!」
「ぎゃっ! Kちゃん先輩録音中に何するんですかぁー! 雑音が入っちゃったじゃないですか〜!」
「歌を録りたきゃカラオケかスタジオに行け!」
「金欠なんですよー!」
「家でやれ!」
「家は家で近隣トラブルの元になるからやめろって言われてるんですー!」
啓子とサドニナの言い合いも堂々巡りだし、この声にしても外に漏れてるんだろうなとは想像できる。仮にも放送サークルだし、簡単にでも防音出来るようにした方がいいのかもしれない。
壁にスポンジを貼るだけでも少しは変わるというのを聞いたことがある。緑ヶ丘では一度それを検討したことがあるらしい。結局やらなかったらしいけど、スポンジが音を吸収する効果はあるとかで。
だけど今この状況で啓子にそれを提案したら、サドニナがこの部屋を私物化するという理由で却下されそうな気がする。案を出すには啓子が冷静なときじゃないとダメだ。
「大体サドニナ、アンタって声優になりたいんでしょ? 今ってネットに歌の動画を上げたら声優になれる仕組みなの?」
「何ですかそれー! イヤミですかー!」
「ううん、それを聞いた業界人が拾ってくれるみたいなシステムが発達してたりするのかなと。ネット文化とかアニメ文化って目まぐるしく変わるでしょ。純粋に気になって」
「今のところサドニナにそんな声はありませんが何か!」
「だろうね」
「何ですかー! キーッ!」
歌は趣味だけどあわよくば歌手としてメジャーデビューとか今世紀最強のピンアイドルとしてデビュー出来れば声優にだってなれるじゃないですか! そう言ってサドニナは鼻息を荒くしている。
結局、サドニナが本当に何がしたいのかはわからないけど歌手か声優を目指しているのかもしれない。ただ、ボクが言うのも難だけど地下感が抜けないと言うか、何と言うか。
「歌って踊れて三次元で演技も出来てバラエティーだってイケちゃう最強のアイドル声優サドニナが誕生してもビビらないでくださいよ! 今まで散々イジメたの後悔させてやりますよ!」
「イジメてはないし、誕生しないだろうからその心配はする必要がないね」
「キーッ! せっかくのニイナデーに水を差さないでくださいー!」
end.
++++
サドニナの野望がだんだんわからなくなってきた件。最強のアイドル声優、か……まあいいんじゃないかな。
ニイナデーだし、と思って始めたら相変わらずわけわかめなことになったけど、サドニナだからわけわかめなくらいがちょうどいい。
啓子さんもそろそろ怒鳴り疲れて来た頃だろうけど、サドニナを甘やかすと付け上がるだろうからなあ……啓子さんポジ大事よ