「浅浦クン、浅浦クンのバイト先って、絶対オタクか腐女子の人いるでしょお」
関さんからの唐突な言葉に、飲んでいた紅茶を噴き出しそうになったのは言うまでもない。と言うか、どうして急にそんな疑惑が湧いて出た。
ウチの店はどちらかと言うと男が多いような気がする。いや、俺がシフトにいるときの話だけど。店全体で言えば女の人もそれなりにはいると思うけど、実際にはともかくオタクとか腐女子という話は聞いたことがない。
「急にどうしたの」
「うん、こないだ行ったら、あからさまにジャンル沼を狙い撃ちしたコーナーが出来上がってました」
「やっぱわかる人にはわかるか……」
そういうサブカル界隈の情報は大体押さえている関さんだからだろう。ジャンル沼どうこうにしても、自分がやっているワケではないけどネット上には作品がポコポコ上がってくるから大体のことは把握出来る、と。
となると、この件に関しては「オタクか腐女子の人がいるかはどうかく、オタクで腐女子を彼女に持つ男ならいる」と返事をするのが問題解決の道筋としては正しいのかもしれない。
関さんがウチの店に来たのは別件だったらしいけど、とりあえず一周してみるとあからさまなコーナーが出来上がっていたから衝撃を押し殺し、不審な動きをしないようにするのが難しかったと語る。
「ああ、あのブースは伊東の犯行」
「ちょっ、カズさん」
ネットスラングで言うところの嘲笑のダブリュー、俗に草とか芝生とも呼ばれるそれを青々と茂らせ、関さんは思い当たるところを辿る。するとやはり、2軒隣の腐海が該当すると言うのだから。
「みやっちは最近携帯ゲーム機を開いていないと言っていました。ほら、件のゲームってブラウザゲーだから」
「沼に落ちてるってことだな」
「資料を探そうにもネットじゃなかなか、って言ってたし、それにカズさんを利用したとしてもおかしくは」
「うん、最後までは聞かないでおくよ」
そろそろ春だし、あの人の事だから就活ついでに美術館やら博物館めぐりみたいなことをしたって全然おかしくない。何故なら春だし旬だから。インプットに次ぐインプット。
しかしまあ、ここまで案の定とかわかりやすい展開だとこれ以上何かを言う気にもなれないと言うか。サッカー特集の時もよくやるなという感じだったけど今回は違う意味ではいはいって感じだ。
「あそこまでわかりやすく攻めて来られるとちきしょうって感じですよう!」
「多分本人も何が良くてコーナーを作ったのかわかってないと思う。単純に「慧梨夏が言ってるから需要があるんじゃないか」くらいな認識だと」
「と言うかカズさんが沼にハマってても嫌だなあ」
「大丈夫だと思う。そのテのあれこれに関しては割と飽きっぽいし」
問題は、次に流行った物に関連するブースを作り出さないかということだろう。アイツ自身内容をさっぱりわかってないのに人に聞く話だけでブースを作られちゃたまったモンじゃない。
「何はともあれそのうち落ち着くだろ……」
「と言うかみやっち次第でしょお。そもそもジャンル沼を狙い撃ちにするって発想もみやっちが吹き込んだに違いないだろうし」
「関さん、恐ろしいことをさらっと言うよね」
end.
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件の沼地のほとりの一夜城の芝生。みなもちゃんには心当たりがやっぱりありましたね!!!
就活ついでに美術館巡りをしそうとか言われてますよ慧梨夏サン! 浅浦クンも慧梨夏相手には結構言いたい放題やりたい放題なような気がしないでもない。まあ、もう半分親戚みたいなもんだしげふん
基本的に、慧梨夏とみなもちゃんのジャンルはほぼほぼ重ならないとかいうヤツ。一緒に楽しむことはあまりないけど戦争も起きない平和な海域である。