「えっ……へっ……へっくしょーい!」
「いやあ、今回も派手だねえ」
――と、ここまでは毎年と同じ花粉症のくしゃみなんだけど、今年はいつもと少し違う点がある。
「カズ、急にマスクなんかしちゃってどうしたの? いつもはめんどくさいって言って何もしなかったのに」
「あー、今年は就活あるじゃんな。さすがにセミナーだの面接だののときはしてらんないけど、普段はちょっとでも自衛した方がいいかなと思って。慧梨夏ティッシュ取って」
「はいはい」
チーンと勢いよく鼻をかむカズの口元には少し下げられたマスク。マスクの内側は大変なことになってるんだろうなあと思うと花粉症の人の苦労は計り知れない。
うちは花粉症じゃないからなんていう余裕もいつ崩れるかわからない。花粉症は急になるっていうのはよく聞くことだし。うちも花粉症にならないようにマスクでもしようかなあ。
いつものカズは、ひっどい花粉症なのにヨーグルトを食べたりする民間療法だけで済まそうとして、マスクやメガネみたいな防衛手段はあまりとらなかった。
それでいて家に花粉は入れたくないのか空気清浄機は何万もするすっごい性能のヤツをポーンと買ったりするんだけど、目や鼻から入れてちゃねえ。
本当は花粉症外来とかに行くのがいいんだろうけど、そういうところにはなかなか足が伸びないみたい。空気清浄機には何万も出すのにねー。本人曰くそれは加湿器と除湿機も兼ねてるからって。
「うーん、これで3000円なら安いかなー」
「何買うの?」
「メガネ」
「花粉対策みたいなこと」
「だな。最近のは進んでるみたいだし」
就活があるからだろうけど、今年のカズは本当にいつもより真剣に花粉対策をしようとしててちょっと嬉しいよね。毎年本当に辛そうにしてるのを見てたから。
それでなくても春は外に出ようとしないし、市販の薬を飲んではだるそうにして寝てばかり。何もする気力がなくって家のこともほったらかしになることが多かった。
今だって、ネットでも取り寄せられるメガネを買いに行きたいから連れてってくれって言ってくれて。自分から何かをしようとする春のカズに感動しちゃうよね。
「服も花粉がくっつきにくい素材にしないとなー、あとスプレーも買ってっと」
「忙しいねえ、カズ」
「仕方ない、死活問題だ」
そう言いながら作る買い物リストには、ドラッグストアにも寄って行かないかと暗に言うような物がズラリと並んでる。保湿ティッシュはどれだけあっても足りないもんね。
「でもね、何回も言うけど」
「わーってるよ。病院に行け、だろ?」
「わかってるならもう言わせないの。学生のうちだよ自由に病院に行ける時間あるのなんて」
「そう言われりゃそうか。今年がラストイヤーなんだな」
そう言ってカズはこの近くで評判の良さそうな花粉症外来のある病院を調べ始めた。自分からそうやって行動を起こしてくれることの嬉しさですよ。
「さ、行こうか慧梨夏」
「おー、乗り気だねー」
「行けるうちに行っとかないとな。対策してたって外になんか出たくないんだ」
「うちが外に出たくない気持ち、ちょっとはわかった?」
「お前も、いつもの俺の気持ちがちょっとはわかっただろ」
「スイマセーン」
end.
++++
いつも春まで引っ張ってるけど、本当はこの時期なんだよなあ、ということで今年はこの時期にやるいち氏の花粉症話。慧梨夏との立場が逆転するよ!
就活の時期が遅くなったということでこの時期に対する危機感が例年ぐだぐだのいち氏を花粉症対策に向かわせたらしい。もちろん民間療法はやめない。ヨーグルトうまー。
まあ、ここはもう安定のバカップルでいいと思うんだ、この時点で今年の秋に結婚するって約束になってるんだから。