例によっていつもの店にちょっと飲みに来たら、髪を真っ黒に染めた洋平が出迎えてくれる。朝霞サンも来てるという、特に求めてなかった情報を付けて。
まあでも朝霞サンがいるなら相席でしょと隣に座ると、これまた珍しい影がある。朝霞サンを挟んでもうひとつ奥、立ち上る煙草の煙。
「あら戸田さん、奇遇ね」
「げっ、宇部恵美…! てかアンタスモーカーなの!?」
「酒だって飲むし煙草だって吸うわよ。何か?」
「別に」
とんでもないのに挟まれたなと朝霞サンが溜め息をつく。こっちだってそんなつもり全くなかったっつーの。何が悲しくてプライベートでババアと顔を合わせなきゃいけないんだ。
「せっかくだし飲みなさい。洋平、戸田さんに生中と5種盛り。私につけといて」
「は〜い」
「朝霞サンならともかくアンタに奢られる筋合いは」
「私の酒が飲めないとでも?」
「飲むけどさ」
とは言え、今日の宇部恵美はアタシが知ってる機械的な、冷徹な幹部の顔とは少し違う。きっと場所と煙草の効果なんだろうとは思うけど。しかしまあぐだぐだだな。
「で、どういう風の吹き回し?」
「理由なんかないわよ。どうせ飲むなら楽しく飲みたいじゃない」
「まあ、そりゃ」
「過去の因縁なんか関係ないわ。所詮私は日高の首を刈るのに失敗した女よ」
そう言って一気にビールを飲み干した宇部恵美は、もう一杯よと洋平を呼びつける。と言うか、日高の首を刈るのに失敗したって言ったよねこのババア!
顔も赤いし呂律もいつもより回ってないから見た感じあんま酒は強くなさそうだ。朝霞サンとトントンぐらい? 喋れなくなる前に吐かせたいよこれ!
「ねえ宇部サン、日高の首を刈るのに失敗ってどういうこと?」
「戸田、一応先輩だぞ。言葉をだな」
「いいのよ朝霞、戸田さんはインターフェイスの仕事も含めてやることをしっかりやってるわ。やることさえやってくれればちょっとくらい気にしないわよ」
「案外話わかんだね宇部サン」
「朝霞よりはよっぽどね。で、日高の話よね。機が熟せばクーデターを起こそうと思ってたのよ。そのためには、自分も幹部になって力を持つことが近道だと思ったの」
「そうやってお前は全部1人で抱え込んで、バカだよな」
「朝霞にだけは馬鹿だなんて言われたくないわ」
ということは、何かがどう間違えば部活の体勢が変わってたかもしれないのか。結果はどうあれ、この人も十分日高にとっての不穏分子だったってことじゃんね。
でも確かに監査っていう立場でちょっとでも不穏な動きを見せた人間をバッサバッサ斬ってたけど、確かに日高派みたいな連中も割と刈られてたな。
「何でわざわざ幹部になったの? そんな目立つところでさ」
「正攻法で行っても流刑地行きになるだけというのは、越谷さんの事案を聞いた上で予測出来たわ」
「こっしーが反面教師だったみたいなこと?」
「そうね。そしてあなたも。でも、おかしいと思わない? どうして真っ当にステージをやろうとしてる人たちが虐げられなきゃいけないのよ。学年ならともかくパートに上下関係? バカじゃないの? 屑よ、腐ってんのよ。実力のある者が日陰に押し込められる世界だから陰湿だって言うのよ無能が己の欲望だけで統治する世界が後世まで繁栄するとでも思ってんのふざけんじゃないわよ」
息継ぎの間もなく早口で捲し立てる宇部節に、洋平と朝霞サンは久々だなあと感慨深げに頷いた。いや、って言うか完全に酔ってるよねこの人!
でも、ちょっと聞くとシラフでもイライラしてる時はこんな感じだって言うから宇部恵美の本性のような物がますます見えない。部活での姿は作り物だったってことは確かだろうけど。
と言うか、部活時代もひょっとしなくたって裏で通じてたなこの3人。朝霞サンと宇部サンとの衝突はガチバトルもあっただろうけど基本茶番だったってことか…! 演技派の朝霞Pと宇部Pにはまいったね。
「山口、宇部に水でも出してやってくれ」
「そーだね。メグちゃーん、水だよー」
「……ねえ朝霞サン」
「ん?」
「部活での宇部サンとこんなぐだぐだな宇部サン、どっちがホントの宇部サンなの?」
「どっちもホントの宇部恵美だ」
end.
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宇部Pご乱心。宇部恵美、旧姓烏丸恵美。みんな洋平割の恩恵を受けてるんだろうなあ。だから頻繁に来られて見事にリピーターだ!
朝霞・宇部両Pの酒癖の悪さが露呈しつつあります。この2人と一緒に飲んでると洋平ちゃんはどういう立ち回り方をするのかも見てみたい。
つばちゃんが宇部Pをフルネームで呼ぶ感じが結構好き。宇部Pが他の班の後輩をフルネームで呼ぶあの感じも結構好きだけど。来年度はもっと殺伐とさせたいつばめぐである。