「Lぅううっ!」
「ぐえっ」
俺の顔を見るなりヘッドロックをかましてくる野坂の表情と言ったら。クッソ、完全に面白がってやがるなこの男。まあ、向島だし当然っちゃ当然だし全然違和感ないよな!
「バカ野坂お前急に何すんだ!」
「この野郎幸せ分けろ」
「いいか、絶対言うなよ。フリとかじゃなくてガチで言うなよ!」
「わーかってるって!」
どうも信用がならないけど、とりあえずはそれでようやく解放された。場所はインターフェイス御用達の某所コーヒーチェーン店だ。名目は対策前議長と定例会議長のトップ会談とかいうそれらしいもの。
いろいろあって最近青女の直と付き合うことになったんだけど、そのきっかけを作ってくれた(?)のがこの野坂だ。そういうことで、結果報告を求められたというワケだ。
一応、その当日にも電話で報告は入れたはずなんだけど、その程度で満足出来るかと呼び出されて現在に至る。要は向島らしくこういう話が好きなんだろうな、単純に。
野坂から呼び出されたから行ってくると直に言えば、直は何を期待したのかマーシーの話も何か聞けないかなあとポツリ。王子だイケメンだと呼ばれていても恋バナが好きな辺りやっぱり直も女子だ。
「まさかなー、直クンとお前がなー、いつの間にかなー」
「ホントいつの間にかだよな」
「この野郎!」
顔がニヤついてんだよお前は。そしてもう一度だけ念には念を。定例会前三役には絶対に伝わらないようにしてくれよとそれだけを押しに押して。圭斗先輩が一番怖えーんだよ。
「俺の他には誰かに言ったのか?」
「高崎先輩には一応。同じアパートだしもしかするかもしんないから」
「高崎先輩は何て?」
「ムギツーは壁も床も薄いからなとだけ。俺にさえ迷惑かけなきゃ好きにしろってスタンスだからあの人は」
「壁と床の薄さに言及する辺り生々しすぎるな」
「まあ、上から下の方が音が響くからな」
実際、こないだは俗に言う家デートというヤツだったんだけど、さっそく高崎先輩と鉢合わせてたから予備知識と言うか事前に挨拶しといてよかったなとは思う。
直と鉢合わせたときの高崎先輩は、彼女から言えばコイツが変な時間に掃除すんのも止められないかって頼み込んでたりして、ちょっと面白い物を見た気分だった。
「何で掃除?」
「掃除の音が響いて睡眠を妨害されるとかでよく怒鳴り込まれる」
「何だそれ」
「薄いっつってる床っつーか天井も穴空きそうな勢いで突いて抗議して来るからなあの人」
話が直とのあれこれのことから高崎先輩のあれこれにシフトしていた。だけど、それはそれで野坂の興味を十分に刺激していたらしい。質問も直より高崎先輩関連の方が多くなっていた。
「えっ、やっぱ同じアパートの上下階に住んでたりしたら行き来したりとかってのはあんのか?」
「高崎先輩は部屋にあんま人上げない主義だけど、高崎先輩は結構ウチに来る。酒飲むぞとか風呂貸してくれとかで。逆に餃子作ったから飲みませんかって呼ぶこともある」
「ナ、ナンダッテー!? 何て贅沢な!」
もうこれワケわかんねーな。直との話を聞きたいんじゃなかったのかお前は。高崎先輩の話が主題になってるじゃねーか。いや、それを利用して俺も野坂と向島のレジェンドとのあれこれを聞き出せないか。
「贅沢って意味だったらお前だってなっち先輩と飯行ったりしてんじゃないのかよ」
「この野郎3年生欠乏症に陥ってる俺の心情を逆撫でしやがってマジラブ&ピースしてやる」
「さ、3年生欠乏症…?」
「ああ! 圭斗先輩と菜月先輩にひと目お会いしたい! その姿を物陰から眺めるだけでも!」
これ、もうなっち先輩への片想いがどうこうってレベルじゃねーな。直には悪いけど、野坂の恋バナは引き出せなかったことにした方が互いのためだなこりゃ。やっぱ向島キャラ濃いなー。
end.
++++
例によってノサカが向島らしさを発揮する同学年回である。3年生欠乏症て何やねん……こないだ卒業式で会ったんちゃうんかい
実際高崎は定例会前三役ほど人の恋愛事情で面白がるようなタイプではないのでそれが救いだと言える。ただしタカちゃんと果林は煽る模様
直クンは意外にと言うか実際結構な乙女である。Lの前だし余計イケメンの王子っぷりは控えめになってそうでちきしょう絶対かわいいやつや