「石川、久々にカツーンと一戦やらんか」
「悪い、それどころじゃない」
麻雀大会にあまり乗り気でない石川というのがまた珍しいが、こういうときの石川には関わらぬが吉というのは美奈がよくよく言っていること。
手元のメモ用紙にひたすら何かを記しているようだが、時折指を折って何かを数えている。オレの席からでも薄っすらと読み取れるのは、数字、数字、数字。
「美奈、これなんかどうだ?」
「いいと思う……」
「個人的には黒がいいと思うんだ」
「星高の制服は、紺とグレーがベースだから、黒の方が無難だと思う……」
「だよな」
よく見ると、マシンのディスプレイには靴が無数に並んでいる。これは恐らく靴のオンラインショップだろう。しかし、普段コイツが履いているような雰囲気の靴でもない。
いや、美奈の言った星高、星港高校という単語でそれがコイツ自身の買い物ではなく妹に関わるものであると即座に気付くべきではあった。気付いた上で、距離を取る必要があると。
「カバンに6000円、靴に7000円を見ると13000円か」
「お祝い事とは言え、結構な出費……」
「いや、せっかく高校に受かったんだ。俺にはこれくらいしか出来ないからな」
「鞄が6000円って……結構高いと思うけど、どんなのを買うつもりなの…?」
これだと石川が商品ページを見せると、美奈の顔がオレにもわかるほどはっきりとした驚きの色に染まる。美奈がこれだけわかりやすく反応をすることも珍しい。
ただ、美奈がこれだけわかりやすく反応をするからには、きっと高校生の平均と言うか相場からはいくらか離れた物であって、なおかつブランド物であったか。
「これ……えっ……入手するの、難しくない…?」
「西海駅裏の店で予約出来たけど、そんなに珍しい物なのか? 確かに在庫が少ないとは言われたけど」
「無頓着って、怖い……」
美奈が言うには、石川が予約を済ませたというスクールバッグは海外の有名ブランドの物でらしい。そのブランド自体の対象はOLなど、高校生よりはやや上の世代だと。
ファッション関連にはアンテナを張り巡らせている美奈だからこそこれだけ驚きもするが、これがブランドに無頓着で妹には盲目な男になるとカバンにかかる6000円の意味だ。
「つまり、妹が物要りで金がかかるから戦えんと。そういうワケだな」
「必要経費まで毟られるワケにはいかないからな」
「負けること前提に話を進めるとは」
「言ってろ、強欲狐」
そう言って石川はマシンを落とし、カバンを担ぐ。バイトだという話でもない。今回は逃がしてやるが、次は覚えとけ。有り金全部毟り取ってやる。
「しかし、シスコンもあそこまでいくと病的だな」
「でも、靴は、多少高くてもいい物を履いた方がいい……」
「ほう」
「それか……いい靴屋さんで、自分の足に合うように詰め物を入れてもらったり……」
「確かに、靴の違和を放置すると気持ち悪いからな」
と言うか冷静に考えたのだが、カバンだのクツだのそういったものは大体親が買い揃えるのではないか? いや、兄弟のおらんオレがどうこう言えることでもないのだが。
end.
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イシカー兄さんを遊びに誘ったリン様、フラれてちょっと不機嫌な様子。イシカー兄さんが妹ちゃんに絡むときは要注意だ!
ブランドなんかには疎い兄さんなので、女子の物ならなおのこと相場なんかがわからず選んであげたものが普通だと思っちゃったパターンのヤツ。妹ちゃんの意思は知らん
美奈がわかりやすく驚く様は本当にレアらしいけど、確かにリン様でも気付くぐらいなんだから相当なんだろうなあ。