「それっ」
「サッチーナイッシュ!」
「はい、休憩ー!」
ゲーム終了の笛が鳴れば、思い思いの休憩スタイルを取っていく。ステージに座る奴もいるし、体を軽く動かす奴もいる。今回の俺は、最後にシュートを決めた三浦に声をかけに行く。
「三浦、お前この1年で何だかんだ上手くなったよな」
「鵠沼コーチの教えが良かったんだよー」
「いや、お前いろんな人に聞いたりしてやってただろ、それが結果出始めてんじゃん?」
GREENsの同期女子の三浦祥子。大学に入ってからバスケを始めた所謂初心者だ。169cmで、女子としては身長が高いという理由でポジションは自動的にセンターになった。
GREENsに入ったのは慧梨夏サンの口車に上手いこと乗せられて……語弊が生じるな。慧梨夏サンから勧誘を受けて楽しそうだと思ったそうだ。イベントが多いサークルだというのもプラスになったとかで。
イベントメインに楽しみたいというスタンスだったものの、せっかくバスケサークルなんだからバスケもちょっとは出来た方が楽しいだろ、とひょんなきっかけから三浦にバスケの基礎を教えることになった。
三浦も最初は誰に話しかけていいかわからなかったらしいが、俺は同期ということもあって割と話しかけやすかったらしい。大体の奴は俺の顔が厳ついとかで引くんだけどな。
「つーか、今更だけど何で俺だったんだ?」
「鵠沼くんて同学年の割には落ち着いてるなーと思って」
「まあ、実際年は1コ上だからな」
「先輩にそういうことをお願いするのも気が引けちゃって」
「普通は先輩がするモンじゃん? 技術指導とか」
「そうなんだろうけどさ、先輩みんなすごい人ばっかだもん。アタシなんかが声かけちゃっていいのかなって思ってさ」
確かに普段の様子を見てると忘れがちだけど、伊東サンも慧梨夏サンもバスケットプレイヤーとしては物凄い人たちだ。普段がああだからたまにマジで忘れそうになるけど。
「鵠沼くんは、バスケ出来ないのバカにしないと思ったんだよね」
「ああ、バカにしねーよ。最初から出来る奴なんかいねーじゃんな。技術以外の才能っつーのもあるし、人それぞれじゃん?」
「技術以外の才能かあ」
「伊東サンの身体能力はガチなヤツだし、慧梨夏サンはいるだけで雰囲気を明るくするトコだな」
「アタシにも何かあるかな」
「お前はやっぱ身長じゃん?」
「よく言われるー」
高校までも体育のバレーボールとかで立ってるだけでいいみたいな扱いされてたよ、と三浦は言う。身長がコンプレックスということでもないらしいけど、それ以外にはないのかと詰め寄られるのだ。
それを言ったら技術以外の才能なんて、俺だってどこにあるのか聞きたいくらいだ。それがあってもなくても練習で補うだけだし、好きだからあまり苦にはならない。ただし、全くならないことはない。
「才能とは違うけど、同じ境遇の後輩にとっての寄り所にはなるんじゃないか?」
「同じ境遇」
「バスケとは直接関係しないけど、GREENsっていうサークルのことを考えたらお前の存在はデカい」
「そっか、大学でバスケ始める子の見本か。話聞いたり」
「そういうこった。技術なんざ後からついてくる。急ぐこたねーじゃん? 楽しくやろうぜ」
「2年生になってからもよろしくお願いします、鵠沼コーチ」
「コーチって言うな、恥ずかしい」
このこっぱずかしさを誤魔化すように、ドリブルのピッチを上げた。力強く、早く。うるせーよお前は黙れよとコーチの手腕を誉めちぎる声を掻き消すために。早く笛鳴れ。
「あのさ、鵠沼くんの面倒見の良さって最早才能だよね」
「そうか?」
「厳つい顔の割に優しいし。アタシ見る目あったよねこれ」
「はいはい、先見の明な」
end.
++++
GREENs同期コンビのくげさち。来年度からもっとガッツリ絡めたいと思います、というところで布石。
鵠さんの面倒見の良さは才能、とはよく言ったもんだよさっちゃん……公式+1年でもその才能は発揮されてるね!!!(残念ながら公式+1年の話はポシャりました)
慧梨夏は今年度最初の話でもそうだけど勧誘結構頑張ってたもんなあ。慧梨夏にとっちゃあ勧誘活動も一種のイベントだしそら燃えるわな……