「あー、不愉快だ。久々に酷い物を見た」
石川が荒れている。ここまであからさまに不快感を示すことの少ない性悪狸がここまでになっているということは、本人の言う通りよほど酷い物を見たのだろう。
石川は席に着くなりストレス発散の自棄食い用に持ってきたドーナツの袋を開く。その石川に対し、美奈が茶を淹れつつ何があったのかを尋ねるのも久々に見る光景だ。
「徹、お茶……」
「ありがとう」
「何を、見たの…?」
「野暮用でファストフード店に入ったんだけど」
石川が言うには、飲食店で起こった子供連れに関するトラブルだったようだ。石川はチェーンのドーナツ屋でバイトをしていてその手の事象には慣れているが、それでも腹を立てている。
子供がやかましくする程度であれば今更何とも思わないらしい。そもそも子供の世界というのは広がっている最中で、精々自分の目の前にいる親止まり。うるさくしても元気だな、と思う程度だとか。
「それならば何が気に食わん」
「親の方だ。スマホばっか触って子供から目を離した結果椅子が倒れたんだ」
「ほう」
「それは……酷い……」
「店員が大丈夫かって聞きに行くだろ、そしたら椅子の脚がぐらついてるから倒れたとか抜かしてやがって。椅子のメンテを怠ったから倒れた、それで子供が泣いてるし自分が不愉快になったから金返せとか言い始めた」
「そんな話が罷り通るのか」
「まさか」
その親は対応に出た店長を土下座させようとしたところで通報されていたとか。周りの野次馬がスマホで撮っていたから既にネットで晒されているだろうと石川は眉間にシワを寄せながらドーナツを食む。
結局、石川は何が気に食わなかったのかと言えば、スマホで子供をないがしろにするとか、店にクレームを入れるための道具として子供を利用したところだと言う。
「こう見えて、徹は子供好き……」
「とてもそうは見えんがな」
「面倒見は、とてもいい……きっと、沙也ちゃんと少し年が離れてるから……」
石川には6つ年下で今は中3の妹がいる。それこそ超とかドがつくほどのシスコンだが、妹に限らず子供好きではあるらしい。しかし、趣味が趣味だけに一歩間違えばそれこそ通報されかねん。
「その辺は、心配要らない……」
「随分と石川を信用しとるのだな」
「徹が溺愛するのは、沙也ちゃんだけ……」
「それはそれでどうかと思うが」
「性愛ということに関しても、淡泊と言うか、皆無……慈愛だとか、そういう物がすべて沙也ちゃんに向いているから、三次元にある他の対象には目もくれない……」
「美奈、次元の話をするとややこしくなる」
相変わらず自棄食いをしていた石川だが、美奈が次元の話を持ち出した瞬間ドーナツを詰まらせ噎せた。これはこれで面白い物が見られたではないか。二次元的動揺と言うべきか。
「美奈、一応俺にも三次元で同年代の彼女がいたことはあって」
「今までの話からすると……恋愛感情のない、事務的恋愛体験……実地のロールプレイ……」
「うっ」
「フッ、美奈だからと包み隠さず話したのが仇になっとるようだな」
「ウルサい狐」
「もし、徹が真っ当に恋をする日が来たなら……きっと、私は、赤飯を炊く……」
奇しくも石川からゼミ室に来たときの表情は消え、してやられたという困り顔になっている。これはこれでなかなか見られないものだ。小3からの付き合いである美奈にはなかなか勝てないらしい。
「美奈、って言うか何で赤飯」
「徹が、新たな感情を得た……そのお祝い……」
end.
++++
イシカー兄さんwww 赤飯www 相変わらず美奈はイシカー兄さんに対する遠慮もクソもない幼馴染みポジションである。
石川はこうみえて結構な子供好きで、妹ちゃん以外のちっちゃい子供に対しても愛想は割と良かったりする。意外だけど。リン様は気持ち悪がるだろうけど
でも、一応イシカー兄さんも真っ当に?かはどうかわからないけど一応ほんのり初恋は経過しているはずなので、お赤飯を炊くにはちょっと遅いかな(笑)