最後の望みをかけているけどどうにもこうにも望みは薄い。あと10分でウチの班の番組が始まる予定なのに、班員が揃わない。これがまだ前日、いや、数時間前から確定されていたなら対策も練れたのに。
「果林、こーた、どうする」
「どーするもこーするも、やるしかないですよねー」
「そうは言うけど果林、ピントークのミキサーどうする」
「こーた、キューシートあれば出来ない?」
「それは全く問題ないんですが、音源がないんです。私の手持ちMは朝霞先輩との番組とダブルトークの分しかありませんし」
「曲なしで番組やるってワケにもなあ」
ファンタジックフェスタのDJブースは順調に稼働している。これまでに消化された班の番組は、素直にさすがと思えたし、学ぶべき物もとても多かった。
ただ、定例会の集合時刻になった時点で芽生えた不安をこうして直前まで放置してしまったのは反省点だ。ステージならまだ独断で行けたけど、他校の人が絡むと判断が遅くなるし、冷徹にもなりきれなかった。
「いっちー先輩に相談してみましょうか」
「うん、そうだな。カズに聞こう」
「いっちーせんぱーい!」
果林にカズを呼んでもらい事情をイチから説明した。言ってしまえば、もじゃが連絡もなくこの場所にいないことで予定が狂ったのはカズもまた同じだった。
尤も、狂ってしまったカズの計画は機材セッティングの男手不足だから、その辺は俺も含めたアナウンサー系統の男連中が協力することであっさりと問題は解決したけど。
「音源なー、で、残されたミキサーはこーたか。じゃあ果林の番組で溜まったリクの消化する感じでいけばいいんじゃない? 緑ヶ丘と向島ペアなら大体のコトには対応出来そうだし」
「なるほど、リクエスト取ってますもんねー。っていっちー先輩、緑ヶ丘と向島ペアだからってムチャ振りのリクを身内が仕込むとかいうヤツはなしですよ!」
「だいじょぶだいじょぶ、イレギュラーじゃやれないよそんな鬼畜めいたコト」
「元から決まってたならやってたって聞こえますよ」
「L用の仕込みは済んでるよね」
「ですよねー」
そうと決まれば慌ただしく始まるのはリクエストボックスをひっくり返す作業。俺のピントークを先に回す構成に変更して、その間果林とカズがどのリクを採用するか決め、AD作業をやってくれるそうだ。
思いがけずステージにも負けないライブ感じゃねーか。これはトラブルだし予期せぬアクシデント。だけど、この緊張感が確かに俺を高揚させていた。これだ。この感じはステージでもラジオでも変わらない。
「よっぺの班はギリで野坂が来たけど、今年の星ヶ丘班は受難だねカオル」
「ああ。マーシーの件を見たからもじゃもひょっとしてって思っちまった節はある。でも、事情は後からたっぷりと聞く。今はやるしかない。3人いればラジオも出来る」
遠くから響くのは、公園内に轟くステージの音。思うところはあるけど今の俺はインターフェイスでやるべきことをやるだけだ。そのためにこの期間、準備だってしっかりとしてきた。
ファンフェスでは本当にふがいない班長だった。だけど、今の俺がやるべきは、何事にも動じず番組をやり抜くこと。それは俺が普段部活で山口に要求していることで、ブーメランで首を刈られる気はさらさらない。
「あと3分か」
「朝霞先輩、表情が鬼気迫ってますよ。ウザドルの魔法で笑顔になーれー」
「ははっ、なんだそれ」
「あ、朝霞P先輩がわらったー」
end.
++++
いち氏が言うところによれば今年の星ヶ丘班は受難らしい。と言うか困ったらいち氏に相談みたいなところがあるのね!
まあ、確かに圭斗さんに言うよかいち氏に言った方が具体的な解決指針を示してくれそうな感はあるよなあげふんげふん
もじゃがどうして連絡もなくファンフェスを欠席したのかについてはこれから明らかになる、はず……