「ひゃっほーい」
「帰れ」
現役生の反応を一言でまとめるなら「出た」というそれに尽きる。ふざけた登場の仕方をするこの人はMMPの4年生にして前代表会計・村井博正、その人である。
ここで説明しなくちゃいけないのは、MMPに残る「ムライズム」というふざけた概念のこと。単に村井サンのイズムである悪乗りが悪質だというだけの話なんだけど、それが今でも根深く残っている。
先輩に可愛がられるタイプの圭斗とはツーカーと言うか、先輩後輩には見えないふざけ合い。圭斗と村井サン、そしてもう一人の4年生・麻里さんが揃えば恐ろしいことが起こると現役生は恐怖に震える。
「スーツを着ているところからすれば、就活帰りですか?」
「スーツのお姉さん最高」
「そんなことだろうと思いましたよ」
「そうは言っても圭斗、お前だってインテリメガネのいかにも秘書なお姉さんを実際目の当たりにしたら俺と同じ反応するだろーがよ」
「ええ、それは否定しません」
圭斗と4年生が揃うと下衆いと言うか下世話な話が白昼堂々と繰り広げられる。不倫浮気は当たり前の恋愛談義や時間をはばからない下の話、それからフェチ談義などなど。
村井サンと麻里さんが揃うとそれはもう。逃げ場がなくなるし、言ってしまえば他校の連中もあの人たちの尋問には恐れおののく生々しさ、とだけ言っておこう。麻里さんの前では愛の伝道師もお子様だ。
「秘書っぽいお姉さんの、ストッキングをこう、ビリビリビリー!」
「ああ、夢ですね。一度はやってみたいですね」
「菜月、ストッキングは消耗品だよな?」
「何でうちに振るんですか」
「ストッキングは消耗品という扱いで問題ないと思いますよ。これがタイツであれば問題になります」
ストッキングは消耗品であるかどうかはともかく、その主題がストッキングをいかに破くかという話だから連中は。麻里さんに一度雷を落としてもらいたい。
「そうは見えないかもしんないけど、就活もマジメにやってるぞ」
「就活はキレイなお姉さん観察のついでという風に聞こえますけど」
「菜月! お前はイケメン観察をしないのか!」
「しませんよそんなの」
「えっ、じゃあイケメンに一瞬目をやったりしないのか?」
「しませんけど」
すると村井サンは大袈裟に驚いたような顔をするのだ。と言うか、村井サンがあからさまにキレイなお姉さんの観察をし過ぎてるだけだと思うんだけど。普通はそこまでやらないと思う。
「菜月、お前、男に対して「アイツカッコいいな」って思ったりしないのか?」
「滅多にありませんけど、ないことはないです」
「圭斗、これはイケメンのボーダーが厳しすぎるのか、それとも特に顔を気にしない天使だと解釈するするべきか」
「菜月の場合、顔だけで夢を見ることがないだけじゃないですか? あと内面から入るタイプでしょうし」
「なるほどなー、で、菜月さんの最新恋愛事情は?」
「村井サン、ローキックと腹パンどっちにしましょうか」
ノサカがよく先輩は敬うべきだとか何とか言ってたような気がするけど、こういうことを言うからこの人は蹴り飛ばしたくもなるし殴りたくもなる。これは正当防衛だし、何より自己防衛って大事だ。
武力行使は勘弁してくれと村井サンが質問を取り下げたところで、うちもスタンバイしていた左足と左手を下げる。まったく。本当に下世話で話にならない。
「何にせよ、就活を頑張るモチベーションがあるっていうのはいいコトだぞ〜、圭斗、菜月」
「まあ、わからないでもないですが」
「ちっともわかりませんけど」
end.
++++
村井サンの就活探訪である。これでこの人は案外スパッと決めて、決めるだけ決めた後はお姉さん観察のためだけに就活を無駄に続けるタイプの人。
今年度?と言うか就活の時期が変わったのも最近のことなので、その最初の4年生という意味ではそういう焦りとかなんとか……って、村井サンとは無縁かwww
菜月さんはイケメンのボーダーも厳しいけど、圭斗さんの言っていることも大体あってる