「はい、今日は終わり!」
「お疲れさまでしたー!」
一通りの練習が終わっても、体育館にはまだまだ人が残っている。GREENsの活動は大体そんな感じ。全体練習が終わってすぐ帰る人の方が少ないと思う。
「1年生も大分馴染んだよねえ」
「そうですねえ」
やけに強い視線を感じたから何かと思えば、伊東サンと慧梨夏サンの義姉妹が何やら妙な表情をして話し込んでいる。この義姉妹にはこの短期間でも結構いろいろと巻き込まれてきたから、用心だ。
「ヤだなあ鵠っち、1年生もサークルに馴染んできたよねってだけの話だよ」
「そうすか」
「そうそう。鵠ちゃんみたくバスケ出来る子はともかく、初心者のサッチーも楽しそうだし今のところは大丈夫そうだねっていう話」
「なるほど」
その三浦は、たどたどしいながらもゴール下でシュートを打っている。まだもうちょっと初心者っぽさが抜けないけど、自主的に練習しているということが大事なのだそうだ。
こう言っては難だが、基本的に勢いばかりが強そうなこの伊東義姉妹も真面目に物事を考えてるんだなあと思ったりして。いや、先輩をバカにすんなと言われればそれまでだけど。
「あ、そうだ鵠っち、家具は揃いそう?」
「今んトコはまだ何が足りないっつーコトはないっす」
「美弥子サン、夏になったらアレ、鵠っちの部屋に寄贈したらいいと思いますよ」
「アレってどっち?」
「どっちもでいいんじゃないですか?」
――とまあ、こういう、端から聞いてるだけじゃ内容がよくわからない当人同士でだけ通じる話題で盛り上がられると非常に怖いじゃん? アレって何なんだ。夏に使う家具みたいなことか?
「さっちゃん!」
「はーい」
「さっちゃんはこないだのネギパーもとい美弥子サンの誕生会も普通に参加してたもんね。今後もイベントには積極的に参加する方針?」
「はいっ! ネギパーのノリなんですよね?」
「ネギパーのノリだねえ」
何度聞いてもおかしいけど、誕生会のまたの名がネギパーって。いくら伊東サンが薬味狂だからっつってネギパーティーはねーだろって思うじゃん? これがGREENsじゃごく普通なんだ。
「でもこれからってどんなイベントがあるんですか? バーベキューとかですか?」
「それもいいねえ。去年は流しそうめんとかき氷大会だったけど」
「流しそうめんですかー、風流ですね!」
「流しそうめん、もとい、ネギパー」
「またネギかよ!」
思わず声に出てしまったけど、心の底から思ったんだから仕方ない。つーかGREENsの食いモン関係のイベントって最終的にはネギに収束するんだな? 学習したぜ。
「鵠っちネギ嫌い?」
「別に嫌いじゃないっすけど」
「鵠っちも一人暮らしで栄養偏るだろうし、ネギ食べときなって」
「あ、いや、基本学食なんで一応野菜食ってるっす」
「そっか、学食のまかないか」
「そー言えば鵠沼くんお昼に丼売ってたー!」
そしたら今度一緒に学食に冷やかしに行くかとか言うモンだからここの連中は。まあ、そりゃ誰が来るかわかんない学食でバイトを始めたのは俺だけど。
「とにかく。さっちゃんを見習いなよ、大学入るまでネギ嫌いだったのに、ここ最近でネギ嫌い克服したんだよ? GREENsの功績だよ」
「三浦、マジか」
「うん。美弥子さんに教えてもらったネギの丸焼き、お味噌つけてかじるの美味しかったなー」
「お、おう。よかったじゃん?」
それ以外に何を言えと。でも、三浦はGREENsにこれ以上ないほど馴染んでいるのは事実のようだ。ネギ嫌いも克服して、先輩にも可愛がられて、そりゃイベントも楽しいだろうよ。
「よし、ネギパー開けるか検討しようか」
「ホントですか!?」
「マジすか……」
「菜園の調子はどうだろう」
end.
++++
姉ちゃんは家の片隅にネギ菜園を拓いた模様。たまにしか帰らないいち氏がいつの間にか出来てた畑にビビるヤツ。
GREENsのパーティーはネギに収束するとはまたたまげたことを言ってくれる鵠さんであった。
そして三浦さっちゃんの好き嫌いをも直してしまうGREENsのネギパーティー、おそるべし