MBCCの昼放送はよっぽどのことがない限り今期も行われていて、少し奥まったところの穴場席ではそれを聞いてる誰かさんがいるはず。トレーには肉うどんとおにぎりの載せ、いつもの場所へ。
「あれっ、いないな」
薄暗くて居心地がいいという理由でユノは第1学食でご飯を食べている、はずなのにいない。何があったものか。まあ、3年だし今までと同じとも限らないか。
どっちにしても、アタシもこっちでご飯を食べるときはユノがぼっち席と呼ぶ穴場の席だと決めている。ここは人があまり来ないし、雑音も少ないし落ち着くには落ち着くから。
「あっ、えっ!? いっ、育ちゃんだ!」
「おー、カズおヒサー」
現れたのはユノではなかったけどまあまあ仲のいい、と言うか同期の相棒。まあ、これはこれで。ただ、カズが第1学食でランチしてるイメージはあまりない。アタシもちょっと驚いている。
「え、育ちゃん今こっちなんだ!?」
「最近戻ったばっかだけどね」
「へー、そうなんだ。でも元気そうで何より」
「今度お土産持ってくわ」
「ありがとー」
……とまあ、アタシはこんな風に出会うことにビックリされる存在。MBCCの幽霊部員的な? 前々から旅で留守がちにはしてたけど、学年が上がってからはサークルに1回行ったか行かないかくらい。
「カズ、ユノは?」
「ヨシは今日番組だよ」
「あ、そーなんだ。そりゃいなくて当然か。サークルは? 王様はどうしてる?」
「うん、頼もしいよ」
「ふーん」
もちろんいい意味ではなく使った王様という単語にも、何を指しているのか少ない単語でわかってくれるカズのありがたさだ。アタシが今のサークルに足が向かないのはこの王様の所為でもある。
だけど、カズはそんなアタシを窘めるように王様に一度顔を見せておけと言うのだ。そう言われたからと言って、このムトーさんがはいそうですかとホイホイサークルに顔を出すような女ではなく。
「武藤のヤツ会計のクセに職務放棄しやがってあの野郎、というようなことは言ってるからね」
「はいはいそーですかーっと」
「それを抜きにしても1回来て欲しいな」
「じゃあ高崎のいないタイミングで行くからそんときは知らせて」
「エリア内……って言うか国内にいる保証ないよね?」
「ないね」
これ以上あの暴君の話をしながらだとご飯が不味くなる。せっかくの肉うどんが。カズもマグロのタタキ丼を頬張りながら、音のバランスはどうだとスピーカーに耳を澄ませている。
「はー、でもユノの日でよかった」
「何で?」
「高崎の日じゃなかったら別にいつでもいいんだけどさ」
「あはは……やっぱ和解ってムリ?」
「ムリ。アイツも今更そんな気ないっしょ、あの石頭が。顔を見ないのが互いのため」
「そうかなあ」
1年の時から続く高崎との因縁に関しては、他の誰が困ってるとかそういうことではないんだからいい加減カズもほっといてくれればいいのにと思ったりもする。
高崎がトップである以上、アタシがそう頻繁に顔を出すことはないだろうし、そもそも旅に出ていることが多い。食事をするのも主に国際センターのカフェテリア。
こうやってここにいるのは、肉うどんが食べたくなったときだけ。肉うどんが食べたくなるのは、海の向こうから舞い戻ったときがほとんど。学業? それなりにちゃんとやってますよ。
「心配しなくても誕生日は祝われに来るし、アンタの誕生日も祝いに戻るから」
「じゃ、次に育ちゃんと会えるのは6月のミキサー飲みかなあ」
「6月6日ってロールケーキの日なんだって、カズ」
「えーっと、じゃあ6月7日って何の日だったかなー」
end.
++++
気付いたら育ちゃんが肉うどんの人になりつつある、お昼の緑大第1食堂である。
一応ユノ先輩は月曜日の番組を持っているという体なので、今日はいつものぼっち席じゃなくて事務所から生放送中。
いち氏は一応高崎と育ちゃんのどちらにも味方していないという中立の立場のつもり。だけどいつかは和解しないかなあと思っていたり。