ドーナツで 感じる
「――季節は抹茶かな、字余り……」
「む」
「いつもの、パターン……」
美奈がリンのパターンを先回りするほどになれば、いよいよこれも使い古された……もとい、定番の文句になりつつあるらしい。そんなバイト上がり、夜のティータイム。
夏も近付く八十八夜も過ぎ、暦の上での夏もとうに迎えている。美奈のファッションも夏仕様に近付いて、履き物もミュールになった。と言うか美奈のファッションは割と先取りだから何とも言えないけど。
「しかし、今年は猛暑と言うか酷暑になるらしいな」
「40度超えがザラか」
「恐らく、冗談ではなく40度超えの日も出てくるんじゃないか?」
よくよく見れば、年中タートルネックのリンも黒いシャツに衣替えしていた。さすがのリンでも首元が詰まっていては暑いらしく、ここ最近の暑さに耐えかねたらしい。
それでも同じシャツばかりを何枚も買うものだから、美奈はリンの買い物には少し首を捻る部分があるらしい。ただ、ファッションに無頓着なこの男に自分と同じレベルを期待するのもどうかと思うぞ。
「いよいよ本格的に夏の引きこもりプランを考えねばならんな」
「プランを立てるまでもなくお前は引きこもりだろ」
「買い物や洋食屋のバイトで外には出る」
「それだけだろ」
実質的な住所が大学の研究室になっているリンですら今以上引きこもると言うのだから、世も末だ。尤も、ここにいる3人全員アウトドアの傾向にはないのだけど。
ただ、俺にはちょっとやそっとの暑さでは音を上げられない事情がある。夏に向け、今から少しずつ体を暑さに慣れさせておかないと、いざというときに耐えられないはずだ。
「リン、お茶のおかわりは…?」
「ああ、もらおう」
「徹は……」
「俺ももらおうか。美奈、ありがとう」
美奈が淹れてくれるお茶もいつの間にか冷えた麦茶になっていた。冷蔵庫を開ければいつでも飲めるようにポットに入れてあるのだ。こんなところでも夏を感じる。
今日はアイスグリーンティーの方が乙だろうけど、と謙遜する美奈には冷たいお茶があるだけでありがたいとしか言えない。と言うか、アイスグリーンティーなんて洒落た物、俺たちには似合わない。
ドーナツの他に買い揃えた抹茶フレーバーのお菓子をつまみながら、今でこの暑さなんだからこれから先どうなるんだと絶望に満ちた夏の話が盛り下がりながら盛り上がる。
夜はまだ快適に過ごせるけど、これで熱帯夜なんかになろう物なら。まだ梅雨入りもしてないのにそんな心配ばかりしたところでどうなるという気がしないでもないけど、心配は心配だ。
本格的に夏を迎えたら、アイスグリーンティーでも作って気分だけでも爽やかでありたいけど、問題はそれまでアイスグリーンティーというものを覚えているかどうか。結局麦茶に落ち着くかもしれない。
「結局、この中で一番外に出るのは美奈か。バイトでも取材に出たりするもんな」
「紫外線対策は、万全……」
「よくやる」
「徹に必要なのは、人のごった返す場所での熱中症対策……」
「仰る通りで」
end.
++++
初夏恒例のヤツも、気付けばリン様が全部を言えなくなるほどに先回りされるパターンのヤツである。
星大組は基本的にみんなインドア派。外に出るのはそれこそ用事のある時くらいで、他はバイトかイベントかといった程度。
リン様のいつものヤツが先回りされるようになったりするのには時間の流れを感じる。あ、ちなみにリン様の衣装はタートルネックだけではなかったのである。