「朝霞クン見て見て〜ツバメの巣〜」
山口から渡されたケータイには、立派なツバメの巣の画像が表示されていた。そう言えば、いつの間にかそんな季節になっていたなと時間の流れを感じたりもする。
「おっ、どこで見つけたんだ?」
「ウチの店の中だよ〜」
――と山口はうきうきした様子で言うけど、バイト先が焼き鳥をメインに扱う飲み屋という辺りが笑えない部分だ。焼鳥屋に巣を作るツバメの強気なこと。
確かに、ツバメにそんな事情は関係ないし、生きていくための環境が良ければその建物がどういう場所だろうが巣を構えるだろう。それでなくてもまあまあ縁起物だ。
「かわいいでしょ」
「でも、飲食店なのに衛生面では大丈夫なのか? そこたらじゅうに糞なんか落とそうモンなら大変だ」
「さすがにその辺はこまめに見てるよ〜」
「やっぱそうか」
「でも、割とみんなすご〜いって見てるし今のところ文句も言われてないよ」
山口はその巣を見つけてから、巣の下に板をかけたり汚されたところは掃除をしたりして手厚く保護しているようだった。うーん、コイツがこんなに鳥を好きだった覚えはないけどなあ。
と言うか鳥どうこうの話だったら文鳥狂いの某先輩にでもすればいいのに。いや、文鳥……もっと言えばペットのピー子ちゃんの話でなければ食いつきも弱いかもしれないけど。
「とだいまー」
「戸田、戻ったか」
「つばちゃんとだえり〜」
「買い出しついでにおやつ買ってきたけど食べたい人ー」
「はーい」
そう手を挙げた山口に手渡されたのは焼き鳥のタッパー。と言うか、おやつと言う物ではないような気がするし、いろいろ突っ込みどころがある。
ツバメの巣どうこうの話をしていたからというのもあるかもしれない。そもそも戸田つばめなんて名前をして焼き鳥を貪る共食い根性。いや、まあ、戸田はヒトだしツバメは串にされないだろうけど。
「朝霞サンのつもりで皮も買って来てるけど」
「あ、ああ。じゃあもらおうか」
おやつの焼き鳥を食いながら、山口はさっき俺にしたのと同じように戸田にも例のツバメの巣を見せている。よほど自分が目をかけているツバメがかわいいのだろう。
「洋平ってそんな愛鳥の精神だっけ」
「でもツバメって何か特別ジャない?」
「そう思うなら後輩をもっと可愛がるべきだ」
「えっ、どーしてそーなるの〜」
「言ってもアタシ戸田つばめだし?」
「今でも十分つばちゃんのことは可愛がってるよ〜? ほら、朝霞クン! つばちゃんが可愛がって欲しいって!」
めんどくさいことになってきたな。そもそも俺は後輩を可愛がるとかそういう柄でもないし、そもそもツバメがどうの愛鳥の精神がどうのこうのと言っているのも山口だ。
「朝霞サンはパス」
「えっ、何でつばちゃん」
「朝霞サンの“かわいがり”って別の意味に聞こえる」
「ボコボコにされる、的なコトね」
「それ」
「戸田、そんなに俺が恐ろしいか」
「これからの季節的に、朝霞Pにボコボコにされるイメージの方が強いっしょどう考えても」
山口の店のツバメが巣立つ頃には、部活もステージに向けて慌ただしくなっているだろう。どうやら、多少厳しいのは予想の範囲内らしいから少し難しめの台本にしてみようか。
「そうか、それなら戸田の期待を裏切らないように可愛がろう」
「それって〜、俺もボコボコにされるってコトだよね〜」
「最初からヌルいステージやる気なんかさらさらないぞ。焼鳥屋に巣を作る強気なツバメの精神を見習う方向だ」
「え〜」
「ほら洋平お前が変に話振るからだろバカ!」
「はい、ごちそうさん。連携練習行くぞ」
end.
++++
焼鳥屋に巣を作るツバメの画像を見たとき、これは星ヶ丘だとすぐに降ってきたヤツ。
例によって焼き鳥うまーな朝霞班だけど、焼き鳥がおやつ……うん、まあ、それも朝霞班文化なのだろう! スーパーに移動販売車でも来てたかね
朝霞Pの“かわいがり”が物理的にボコるのか精神的にボコるのかは想像にお任せだけど少なくとも洋平ちゃんは物理的にもボコられるだろう