緑ヶ丘大学には食堂や購買が複数あって、昼食時にはどこも人でごった返す。俺は第1学食のこともあれば第2食堂のテイクアウト丼のこともある。だけど、捨て難いのは第1学食2階の量り売りだ。
グラムで何円という風に決まっていて、後は何を盛ろうが自由。白い飯もタッパーに詰めて売られている。和洋中、いろんなジャンルのおかずが揃うし、何気にここはお気に入りだ。
「高崎ー、俺先レジ並ぶわー」
「おう」
一緒に来ていた飯野はたこ焼きだの唐揚げだの茶色い物ばかりをタッパーに盛り、白い飯のタッパーを手にしてそそくさと長い列の最高尾についてしまった。
俺はと言えば、日や時間によって変わるおかずの中から当たり群を探して少し右往左往。俺が今日狙っていたのは筑前煮。こんなことでもねえと煮物なんか滅多に食わないからだ。それにここの煮物は美味い。
「筑前煮ねえのかよ今日」
筑前煮が諦めきれず、スペースを空けて他のおかずを盛る。鯖の味噌焼きにほうれん草のおひたし、ひじきと大豆の煮付けなど。気がつくと今日は和食に寄っていた。さすがに、筑前煮とグラタンやオムライスっつーのもな。
「おーい、高崎ー、お前まだ決まんねーの」
「決まってねえんじゃなくて、食いたいモンを諦めきれねえだけだ」
「えっ、お前何待ちなの」
「筑前煮だ」
「渋いなー、お前のことだから揚げモンとかかと思ったのに。あ、つーかまだならついでだしイカリングも乗っけてくんね?」
列から手を伸ばす飯野のタッパーにイカリングを2つ3つ乗っけて俺はもう少し筑前煮を待つ。今日の俺は筑前煮が食いたくて仕方ねえんだっつーの、頼むからマジで来てくれ。
そうこうしている間に人気のあるおかずの皿が空になっていって、食堂のおばちゃんが様子を見に来た。よし、これはおかずの追加補充なり入れ替えなりのフラグだろ。
「はーい、お待たせしましたー追加のポテトと入れ替えの筑前煮ですよー」
「ほら来た!」
「高崎の食い意地パねえ」
「食い意地って言うな。執念だ」
「違わねー」
「あのおばちゃんに後光が差して見える」
空けていたスペースに出来立てで湯気の上がる筑前煮を盛り、白い飯のタッパーを手にしてようやく列に並ぶことが出来た。和定食もどきの量り売りランチだ。
レジを抜ければそれを手にしていつもの場所に向かうだけ。学内の中心には噴水池が設置されている。その周りに敷かれている芝生、そこが飯をテイクアウトしたときのお決まりの場所。所謂青空ランチ。
「いただきまーす」
「うん、筑前煮は間違いねえ」
「高崎、お前ってそんな煮物好きな奴だっけ」
「特別好きっつーワケでもねえけど量り売りの煮物は地味に美味い。自分じゃなかなか作らねえしな」
「ふーん、俺いつもたこ焼きとかポテトとかしか取らねーからそれは知らなかった」
そう言ってたこ焼きを頬張る飯野のタッパーにはポテトや唐揚げといった揚げ物ばかりが盛られていた。辛うじてポテトサラダがあるくらいで、色味がほとんどない。
「つかお前バランス悪すぎだろ」
「いーんだって、自由なのが量り売りの醍醐味だろって」
「まあな。あー、ビール飲みてえ」
量り売りは自由なのがいい。ただ、毎日になると何気に高くつくからあまりガッツリとは利用できないのが難点だ。あと、青空ランチも乙だ。ただ、学内故に芝生でビールが飲めないのが難点。それもこれも一長一短か。
「外で飯食うとお前大体それ言うよな」
「じゃあお前は思わねえのかよ」
「思う」
「なら人にどうこう言うな」
end.
++++
高崎はバランスを考えてるとかって言うよりも、食べたいものを取ったら何となくバランスが取れてたとかだといい。
高崎が量り売りで煮物を食べてるっていうのはちょっと前から考えていたのだけど、ここでガッツリとぶち込んでみる。ちなみに筑前煮以外の煮物も食べるよ!
ちなみにこの青空ランチは飯野がちゃんと大学に来ていて、なおかつ晴れている日だけなので、地味に頻度は下がっていくかもしれないw