「圭斗先輩おはよーございます」
「ん、おはようヒロ」
「あっ、圭斗先輩聞いてくださいよホンマあり得んのですよ」
僕の顔を見るなりそうやって言ってきたのがヒロであることを少々不思議に思いつつ、ヒロが理不尽な出来事を僕に訴えるのが珍しいというのもあって、とりあえず話を聞いてみる。
「ヒロ、ところで野坂はどうしたんだい? 授業はほとんど同じなんだろう?」
「ノサカは課題終わるん早かったんで1秒でも惜しいとか言ってサークル室に行きました」
「そうか。で、ヒロは僕に何を訴えようと」
授業後の情報知能センターのロビーという、他に誰の邪魔も入らない環境が意図せず出来上がっていた。ゆっくり話を聞くならここがいい。文系の人間はここに用事などほとんどないのだから。
「昨日、対策の会議があったんですよ」
「初心者講習会の関係で何かあった?」
「それなんですけど、三井先輩が用意しとったプロ講師とかいう人がドタキャンになったんですよ」
「ちょっと待て、明日だろう? それで代役の講師はどうなったんだい?」
「それは菜月先輩にお願いしました」
「ん、菜月なら代役には相応しいね」
野坂が1秒でも惜しいとサークル室に駆けていったのも菜月と打ち合わせをするため。普段なら課題を教えろだの何だのと喚くヒロも、今日ばかりはボクを置いて先に行けと野坂を見送ったそうだ。
ヒロ、と言うか対策委員が何を不満に思っているのかが大体見えたところで改めてそれを聞いていく。何が起こって、僕に何をどうして欲しいのか。話を聞くだけでいいのか、それとも処分を求めるのか。
「ボクら三井先輩に振り回されまくっとるんですよ」
「大体の事情は聞いてるけど、本当に酷そうだね」
「ノサカはマジメやから先輩にはあんま強く出れんのですよ、議長がそうやから三井先輩に隙を与えとるんですよ」
「想像には難くないね」
「そんで昨日ノサカに講師ドタキャンのメール送ってきてからは音沙汰ないらしいやないですか、謝罪も何もないんですよ。ボクはプロ講師の存在もウソやったんやないかなーと思っとるんですけど」
他人のことに興味がないという印象の強いヒロが対策委員のことをちゃんと考えていたことにも驚きつつ、本格的に三井をどうするかというところを考える。
対策委員への介入以外にもプライベートなところで他校に迷惑をかけているという訴えも入っている。内輪だけの問題では収まらなくなっているのは前々からわかっていること。
「そうだね、ヒロは三井をどうしたい?」
「初心者講習会はもう明日なんでやるだけですけど、夏合宿にもこのノリで来られたら正直やっとられんですよ。やるんはボクらなんに何でボクらの意志で動けんのって感じですよ」
意外に、と言えば失礼だとはわかっているけどやっぱり意外だった。MMPでも特に掴み所のない程マイペースなヒロから“自分たちの意志”という言葉が聞けるだなんて。
「わかった、ヒロの想いは受け止めたよ。もし夏合宿でも三井が調子に乗ってくるようなら僕に言うんだ」
「何かしてくれるんですか」
「ん、僕はこう見えて向島インターフェイス放送委員会の議長だよ。トップの命令は、絶対だ」
ノサカも圭斗先輩みたいな絶対的な力があればよかったんに、という言葉に対しては、アイツにはアイツのいいところがあるのだから言ってやるなと返した。
「しかし、ヒロにも案外熱い面があるんだね。新発見だよ」
「ボク普段からこんなですよ」
「とてもそうは見えないけどね」
野坂は対策で絶対病むから相棒としてヒロをつけるという菜月の作戦は、意外と当たっているのかもしれないね。普段はとてもそう見えないけど。
end.
++++
珍しい組み合わせ。圭斗さんとヒロ。今年のヒロは結構熱い面があるようです。いつもこうならノサカも楽なんだろうなあ……
今年のヒロの熱さが夏合宿にどうかかってくるのか! いや、どっちにしても直クンとハマちゃんがんばれーな未来しか見えないのだけども。
そして相変わらず課題はノサカ任せなのでこれが学期末、学年末にどう響いてくるのか!!!