俺たちの間にあるそれらしいルールと言えば、互いの趣味には口出ししないという物と、誕生日や記念日には外に出掛けるという物がある。強いて言えば本当にそれくらい。
そのルールは今日も例に漏れず適用されている。何を隠そう俺の誕生日だ。去年はワールドカップだ初心者講習会だと忙しくしていたけど、今年は割とゆっくり過ごせそうだ。
どこへ行くかというのはちゃんと決めていないけど、外に出歩くということが何より大事だから行き先はさほど問題じゃない。それに、もしかしたら慧梨夏が考えてるかもしれないし。
「カズ、電車に乗ったはいいけどどこ行こっか」
「お前も考えてなかったのな」
「カズも考えてなかったの? うち、カズがしたいようにするんだろうなーと思ってたから何も考えてなかったけど」
「俺もお前が引っ張ってくれるのかなーと思ってたから何も考えてなかった」
とりあえず街に向かえば何かがどうにかなるだろう。互いにそんな行き当たりばったりプランだったらしい。だけどそれもご愛敬ということで、改めてどこへ行くかを考える。
方角はもう決まっているのだから、後は具体的な行き先を決めるだけ。ただ、何をしたいでもなく目的意識もないお出かけだ。すぐに詰まる。一緒にいられればいいというのが突き詰めたところにあるから。
「慧梨夏、本当に行きたいところはないのか?」
「ないと言えばウソになるけど、カズと行くようなところではないんですよ」
「なんだそれ――と思ったけど察した。そういうのは他に趣味の合う友達か単独で頼む」
「でしょ」
慧梨夏の趣味を一言で言えば二次元趣味だ。オリジナル・版権問わず同人誌なんか当たり前のように作るし、ゲームにも忙しくしてるしマンガやアニメもそれなりに追っている。
そもそも俺みたいにそういう知識のない人間がアニメだのマンガだの、版元のある作品に対して版権という呼び方をするということもそうそうないことだとは聞いているけど影響って怖い。
「カズは本当に行きたいところはないの?」
「特に思いつかない。こんなことならちゃんと考えときゃよかった」
「無理して外に出ることなかったパターンのヤツ?」
「いや、外には出ないと次がいつになるかわかんないからそこは譲らない」
「引きこもりがちでスミマセーン」
「まったくだ」
俺たちは普段からどっちかの部屋に2人でいることが多いから、何かと理由を付けて無理にでも外に出ないとマンネリ化するだろうなというところから始まったルールだ。
行きたいところがあるでもなく、やりたいことがあるでもなく。何となく外に出て歩くだけでも普段はあまり見られない物が見られる。たとえば、慧梨夏の余所行きルックとか。
「あ」
「どうしたのカズ、何か思いついた?」
「今度友達とフットサルやることになってんだって。新しいTシャツかポロシャツか何か欲しいなー。誕生日も近いしタオルでもあげようかな、部活も外での活動が多いだろうし」
「あ、うちも替えのバスパン欲しいんだった。すっかり忘れてた」
「じゃあ、スポーツ用品店に行くか」
「だね。けってーい」
目的と行き先が決まれば、心は躍る。ひとつ何かが始まれば。芋蔓式に次々とやりたいことが出てくるはずだから。慧梨夏と出掛けるっていうのは、そういうことだ。
手を繋いで、買い物をして、ご飯を食べて。ギラつくネオンに紛れるまでのプランはいろいろ。やりたいことはまだまだ増えるだろうから、調子に乗って買い物しすぎないようにしないと。
end.
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今年はちゃんとデートが出来たらしいいち氏と慧梨夏である。去年は忙しかった模様。(去年の6月7日は土曜日で初心者講習会があった体。いち氏は対策委員のヘルプ役でした)
誕生日や付き合い始めた記念日は互いの趣味をグッと堪えて措いといて、一緒にどこかへ出かけるというのがこの2人がちゃんと決めているルール。
そして何気に入っているIFサッカー部の活動であるwww いち氏は洋平ちゃんにどんなタオルをプレゼントするのだろうか……