「僕はもうダメだ、死ぬかもしれない」
そう言って、圭斗はサークル室に入るなり自分の席で伏せてしまった。こうなるとサークルの進行は知ったことかとガン無視決めて来るのが厄介だ。
死ぬかもしれないほど辛いなら来なきゃいいのに、ケイトくんだっているんだからと思うには思う。うちはどこかの誰かと違ってメール無精というワケでもない。
「ナ、ナンダッテー!? 大変だ! 圭斗先輩がお亡くなりにでもなられたら大変だ!」
「死ぬかもしれないって言える時点で死ぬワケないだろ」
「ですが菜月先輩、現に圭斗先輩は席に伏せています」
あー、めんどくさいのが始まった。
ノサカは元々圭斗の声にオチるタイプの奴で、ヘッドホンで声を聞くと腰抜けになっていまう。それで番組に支障が出るからペアを組むのを禁止したという経緯がある。
だけど、それはそれ、これはこれ。ノサカってこんなめんどくさい奴だったか? ノサカが騒いでいる声は圭斗に届いていないワケじゃなかろうに。起きるに起きられないぞ、これは。
ただ、このままわあわあと騒がれてもサークルは進まないし、何よりウルサイしめんどくさい。言ってしまえばこれだって定期イベントのような物なんだ。
「菜月先輩、圭斗先輩が少しでも良くなるように何か出来ませんか」
「無理だな」
「そんな!」
愕然とするノサカに携帯を開くように言った。ウェブに繋いで、チェックするのは天気予報。そう言えば、今朝干した洗濯物はどうなるだろう。
「この後の天気はどうだ」
「夜頃から雨という予報になっています。あ、梅雨入りもしたようですね。しかし、それと現状に何の関係が」
「圭斗の頭痛は低気圧レーダーみたいな物で、よくあることだ。騒ぐ程じゃない」
「つまり圭斗先輩はこの後の雨予報を察知していたと」
「そういうことになるな」
すると圭斗は一瞬むくりと起き上がり、一言だけ放ってまた伏せた。――僕は今朝の時点で雨を予測していたから洗濯物は部屋干しにしてきたよ、と。
圭斗が雨を察知して行動してきたらしいことにまたノサカは予知能力だ何だとウルサイ。どうせうちは雨が降る前に帰れるだろうと思って洗濯物はベランダに干しっぱなしだ。
「あー、雲が大分厚くなってきたぞ」
「降りますかね」
「と言うか、降られたらここからも帰れないぞ」
傘はない。家を出る時点で降らないと賭けたからだ。うちには圭斗のような低気圧レーダーはないし、何より傘は荷物になる。弁当忘れても傘忘れるな、この言葉を忘れたばかりに。
窓から見上げた空は少しずつ重くなっていた。これは、その時が刻一刻と近付いている。洗濯物、前髪、買い物。雨がもたらす憂鬱は数えればキリがない。
「圭斗、もし帰りに降ってたら乗っけてくれないか」
「わかった、わかったから今は寝かせてくれないか」
「言ったな」
帰りの足を確保出来れば問題ない。さあ元気にサークルを始めよう、とかいうノリでもなくなっていて、いつの間にか発声練習を端折るいつもの流れ。
発声練習は、もう少し天気のいいときにでもやろう。そもそも、本来それをやるべきアナウンサーが1人低気圧を察知して伏せてるんだから。
end.
++++
ノサカがそろそろ始まっている様子。圭斗さんに対する崇拝指数が少しずつ上がっているよ! 大変だー
そろそろ向島エリアでも梅雨入りだろうと思い、まあ、初心者講習会やらの話を上げるタイミングのこともありこの話がここにずれ込みました。元々もうちょっと早く上げるつもりだったんだけど。
弁当忘れても傘忘れるな、この言葉は菜月さんの他にはきっとハナちゃん辺りが知ってそう。ハナちゃんは車の中に置き傘してるよ!