そういうことだから、考えといて。そう言われてその話を持ち帰る。俺が何を考えなくてはいけないのかと言えば、放送部にいるなら必ず通る班編成のこと。
今はシゲトラ先輩とマロ先輩にお世話になっていて、何となく俺はこの2人の先輩がいる班でやっていくものなんだろうなあと勝手に思っていた。そこに話が降って湧く。
「――ということなんですけどシゲトラ先輩、どうしたらいいんですか俺」
「まあ、何にせよこの時期に声がかかるってのは名誉なことだぞゲンゴロー」
「そういうものなんですか」
「いや? 実力も未知数なこの時期に、正式に班の一員として迎えたいって声をかけるのはなかなかない。パートもあやふやだし」
星ヶ丘の放送部は、プロデューサー、アナウンサー、ミキサー、ディレクターの4部門のパートがある。最初はP・アナと、ミキ・Dという風に何となく分かれて、そこから細かいパートが決まっていく。
厳密なパートが決まるのは秋学期に入ってからなんだそうだ。大まかに分かれた時点で各班が今いる班員のパートなんかを考えた上で1年生に声かけをしたりしてどんどん所属班が決まっていく。
パートが2つにすら分かれきっていないこの時期に引き抜きの声がかかるということは、青田買いとかギャンブルとか、そういう域でもあるとシゲトラ先輩は言う。
「ただ、朝霞班っていうのはお前にとってもギャンブルだな」
「怖いと言えば怖いんですよね」
「いや? 幹部に反抗的な態度をとったりしなきゃ洋平みたく上手く立ち回れる奴もいるし、なるようになるけどな」
そう、何を隠そう俺にかかった声というのがあの朝霞班からだったのだ。対策委員をやっているつばめ先輩から、ミキサーとしてウチの班に来てくれないかとインターフェイスの初心者講習会後に声をかけられた。
「そういやインターフェイスはどうだった」
「楽しかったですよ、他校に友達も出来ましたし」
「えっ、星ヶ丘って大体教室の後ろの方に群れないか?」
「他の子はそんな感じでしたよ。俺は勝手に他校の子と一緒にいましたけど」
楽しかったならいいけど、とシゲトラ先輩は苦笑い。これからもインターフェイスのイベントには出るつもりなのかという質問には、出たいですと即答。
「ゲンゴロー、お前は朝霞班でも上手くやれると思うぞ」
「えっ」
「ぶっちゃけウチの班ってミキ余ってっからお前を使う枠がないっつーのもあるし。いや? 追い出したいってワケじゃねーぞ」
「そうですよね、2年生にも2人いますし」
「朝霞班はほら、ミキサーを触れるのが戸田しかいねーじゃんな。朝霞班なら早い段階で実践的なことをやれるしインターフェイスのイベントにも堂々と出れる。部内での立ち回りに関しては洋平を手本にすりゃ大丈夫だ」
「でも、Pの朝霞先輩が怖いと言うか」
「あー、ナニナニ。ありゃステージに妥協を許さないだけで実際気のいい奴だ」
肩からかけて巻いているカーディガンは寒がりだから羽織が欠かせないからとか、カラオケでは山口先輩と文字通り歌って踊るとか。シゲトラ先輩がしてくれた話で怖そうなイメージは少し和らいだ。やっていける、かなあ。
少なくとも、俺がインターフェイスのイベントに積極的になれたのも、はみ出し者の流刑地と呼ばれる朝霞班に対してマイナスイメージから入らなかったのもシゲトラ先輩とマロ先輩のおかげだ。
「シゲトラ先輩、つばめ先輩に班に入れてくださいって返事してきます!」
「おー、朝霞班でも頑張れな」
「今までお世話になりました!」
「いや? まだ終わっちゃいねーぞ。困ったら声かけろよ」
「はい!」
決めるなら早い方がいい。新天地で頑張ろう。
end.
++++
こうしてゲンゴローは朝霞班への加入を決断しましたとさ。現にゲンゴローもコミュ力タイプだから悪い扱いは受けなさそう。
幹部寄りでも流刑地よりでもない永世中立班、班の名前はまだないけど、その中立班で最初にお世話になっていたのがその後のゲンゴローのあり方に繋がったのかしら。
いつか世界のシゲトラがインターフェイスのイベントだとかIF3年会だとかに出ている話なんかもやってみたいと思ったりもする。どうなるやら。