奇跡が起きたと出迎えられる18時10分。厳密には10分の遅刻だけど、それすら滅多にない領域。いや、一応毎回遅刻はしないようにと思っているのだけど結果が伴わないだけでいやはやそんな。
「よし、久々に野坂が仕切る会議だー」
「仕切れ仕切れ議長ー」
「あ、えーと、それでは会議を始めます」
いろいろあったけど、初心者講習会は何とか無事にやり遂げることが出来た。先輩への感謝は数え切れない。だけど、羽を伸ばす暇もなく始まるのは夏合宿に向けた準備だ。
スキー場DJをやっていたときは、そのDJに向けた技術向上と番組形態を体験するということが主な目的だった。それと、公共の場での放送に耐え得る実力の有無でふるい落とすこと。
だけど、その活動がなくなった今ではある程度の技術向上と他校の人との交流がメインになっている。他校の人と番組を作る機会は少ない。インターフェイスのイベントでもこれはかなり重要な位置にある。
「夏合宿について、ですが。日程はまあ、いつものように8月下旬かなとは思っています」
「それが妥当だね」
「どんな講習をするかについてはまた今度詳しく考えるとして、日程を決めて参加者を募らないと班も決められないし」
夏合宿の肝は何と言ってもともに活動をする班だろう。基本的にアナウンサー3人ミキサー3人の6人編成だ。大学やパート、学年が重ならないようバランスをとって決められる。
「言ったらMBCCは1・2年強制だしウチはまあまあ出るよ」
「それはウチもだから、5人は出るな。あ、緑ヶ丘と向島がアレだからって他の大学さんに強制するとかではないから安心してもらって」
「野坂、3年生って参加アリなの?」
「原則禁止ではないからそれは全然OKなんだけど、菜月先輩が仰るには去年も出てなかったし今年も出ないだろう、とのことで」
「何かが間違ってあの人が出てきたりしないよね?」
果林の懸念にその場にいた全員が一瞬固まった。あの人というのは、名前こそ出ていないけど初心者講習会をこれでもかと引っかき回してくれた三井先輩の他にいない。
もし夏合宿にも三井先輩が出てきたら。それはもうめんどくさいことになる未来しか見えない。迷惑を被るのが対策委員だけならともかく、一般の参加者にも降り懸かったら。実際その可能性は非常に高い。
「いっそ3年生参加禁止にする?」
「いや、3年生にも権利はあるし、実際出て来てもらえばお手本になるような方だって多いわけだから一概に禁止には出来ない」
「あ、初心者講習会の前に圭斗先輩に三井先輩ウザいんやけどって相談してんけど、もし夏合宿でも三井先輩が調子扱いとったら言ってええよって言っとったよ」
「圭斗先輩が?」
「そうやよ。圭斗先輩が定例会議長として三井先輩をどうにかしてくれるって」
「と言うかまた随分とストレートな相談内容だな」
「ボクやから許されるんやよ」
ヒロくらいストレートに物を言えればどれだけ楽だっただろうと思わなくもないけど、圭斗先輩がそのように仰ったということは俺たち対策委員にとって大きな後押しになる。
言ってしまえば、俺たち対策委員は自治権こそあるけど向島インターフェイス放送委員会の中の組織であって、俺たちの上には定例会議長がいる。本来、守ってもらうことは決して悪くない。
「よし、とりあえず日程は決まったから各大学で参加者を募集してもらって」
「参加学年は?」
「1〜3年生で」
end.
++++
本来対策委員には、圭斗さん(と書いて定例会議長と読む)という後ろ盾があるよ! 置物の議長ですが、今年は例年よりちゃんとしてるかも。
もちろんこの時点では「3年生は参加しないだろうハハー」とどこか余裕をぶっこいていた対策委員である。
しかしヒロの相談内容www ストレートすぎてまた。でもヒロだからなんとなく許されるという風潮である。