「朝倉さんて、大学でどういうことを勉強してるんですか?」
「え、俺?」
バイトなんかをしていると、普通に大学生活を送ってるだけではなかなか知り合えない人との出会いがある。朝倉さんはバイト先での先輩で、青浪敬愛大学の4年生だ。
ウチのバイト先は割と自由度が高い。店頭ポップの書き方だとか、おすすめの本につける「店員の声」という紙だとか。特に自由が利くのは特設コーナーを作ることに関してだと思う。
伊東なんかは割と軽率に特設コーナーを作る。去年なんかはワールドカップがあったからサッカー関連の本をこれでもかとかき集めてコーナーを作っていた。このテの改装をウチでは魔改造と言う。
俺が強いのは小説方面だから、文学賞の時期とか本屋が勧めたい小説みたいな時期になると個人的に忙しくなる。伊東のサッカーや俺の小説以外に、この分野ならコイツに投げろみたいな空気が出来ている。
「浅浦くん、急にどうしたの」
「朝倉さんて、あまり自己主張しないと言うか、バランスがいいと言うか。何に強くて何がウィークなのかっていうのがあまりなさそうで」
「それと大学での専攻には関係ないような気がするけど」
「単に俺の興味です。朝倉さんて何に興味があるのかなあと」
「それを、3年目のタイミングで?」
「我ながら遅いなとは思ってます」
休憩に入ったら聞こうと今日はずっと考えていた。別に隠すようなことでもないからね、と朝倉さんは鞄の中から一冊の本を取り出した。おどろおどろしい表紙には、知る人ぞ知る都市伝説、と書いてある。
「俺の専攻は都市伝説」
「えっ」
「そういうちょっとオカルトめいたことを中心にやってる民俗学系のゼミなんだよ。後輩は呪いについてやってるし」
「本格的にオカルトですね……」
朝倉さんが言うには、都市伝説と一言で言っても時代背景や地域性が面白いのだとか。インターネットのない時代に全国区だったものはどこが発祥なのか、などなど興味が尽きないらしい。
「オカルトと言えば」
「浅浦くん何かある?」
「俺、完全に“見える”とかではないんですけど、あっちの方がちょっと嫌だなと思うレベルの軽いアレがあるんです」
「霊感?」
「根拠もないんで伊東以外には言ったことないんですけど」
「でも、残念ながら俺の専攻は都市伝説だから霊的なものにはあまり対応出来ないな。呪いの後輩に今度聞いてみようか」
「いえ、そこまでしてもらわなくても大丈夫です」
そもそも呪いと霊的なものはまた別件だろう。呪いを勉強してるその後輩がよほどそっちの専門知識を持っているのか。と言うか本当に特殊な、言ってしまえばイロモノなゼミだ。
少し引いてしまっていたのが顔に滲み出ていたのか、朝倉さんはちゃんとフィールドワークもしてるし真面目に研究してると珍しく少し声が大きくなっていた。
ちなみにそのフィールドワークでは、都市伝説探しついでに心霊スポットにも行くらしい。今気になっているのは異次元に通じるという区画の話。真面目? うん、真面目か。
「よし、俺の興味対象が明らかになったところで今年の夏は俺も魔改造しようかな」
「ちなみに、コーナーのテーマは」
「霊的な話と都市伝説。盆の前後にね。シーズンだから怒られないと思うよ。浅浦くん、手伝ってくれるよね」
「それなら伊東も巻き込みましょう、普通の奴がどう怖がるのかの被験体として」
end.
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朝倉さんは青敬の4年生。長野っちとは学術的なところで繋がりがあるとかないとか、って……ええー……マジ色物……www
いち氏&浅浦クンがバイトしてる本屋さんにいる他校のモブ先輩朝倉さんがだんだん実体を持ち始めたよ! 前々から青敬だろうとは思ってたんだがなあ……
ちなみにその呪いの後輩はそろそろ退院できる頃かしら。春学期は捨てたらしいからもうしばらくは大人しく養生してるだろうけどね!