「ヒマになりましたねー」
「この時期はこんなものだ」
6月に入ってから薄々感づいていたけど、情報センターの利用者が明らかに減った気がする。5月の連休を過ぎたくらいから人が淘汰されるとは林原さんから聞いていたけどここまでとは。
言ってしまえば座っているだけで時給が発生してしまう状況だ。受付の席で、人を待つことしばし。普段は自習室にいる林原さんも、閑散期は人が来るまで事務所で待つそうだ。
「川北、お前はちゃんと授業に出ているのか?」
「今のところ大体出てますー」
「大体な。フッ、秋学期以降どうなるかな」
「学部固有はちゃんと出てますよー」
逆に言えば一般教養はあまり自信がない。一応大体は出ているけど、場合によっては捨ててしまう可能性だってゼロじゃない。やっぱりどうしても、学部固有と比べると軽んじてしまうと言うか。
「うーい、テメーらやってっかー」
「わー、春山さんおはようございまーす」
「……アンタ、確かこの時間は講義ではなかったか」
「あー、宇宙熱を患ったからサボりサボり。自主欠席。川北ー、コーヒー淹れてくれー」
「はーい」
春山さんはもう必要な単位はほとんど取ってしまったらしく、今取っている授業は趣味なんだそうだ。履修登録もしていないから出なくても問題ないとかで。4年生にもなるとこうまで自由になるのか…!
俺が感心しているのを後目に林原さんがこういう進級の仕方だけはするなと戒める。ただ、心配しなくても春山さんのように奔放にやれる自信はない。
「と言うか何をしに来たんですか」
「ゼミまでの暇潰しだ」
「春山さんでもゼミには出てるんですね」
「私を何だと思ってるんだこの野郎」
「ご想像にお任せします」
「今日はゼミの後で飲み会だからな」
今日も激しくなりそうだぞと気合いを入れる春山さんを見ていると、4年生は激しいんだなあと思う。それを冷たい目で見ている林原さんも、授業の合間にゼミ室によくいるようだし。
俺はまだ1年だから空き時間もあまりない。たまにあったとしても購買をふらふらしたりする程度。学年が上がればヒマの潰し方ももうちょっと上手になれるのかなあ。
「暇の潰し方に自信がないのであれば、ここで座っていればよかろう。1コマ分の90分で、時期によってはそれで1500円になる」
「でも、時期によってはバタバタしますよねー」
「そういう時期は否応なしにシフトに突っ込まれるのだから問題ない。のんびり出来るときほど稼ぎ時だ」
「何もしないでも時給が発生するのはまだちょっと罪悪感が」
「センターの保守・保全業務をしているという体だ」
「それだ、それですね!」
林原さんが言うには、そういう労働形態であることを雇い主である大学が認めているのだからということらしい。なるほど、開き直りって大事かもしれない。
「川北ー、こういう大人にはなるなよー」
「何を言いますか、春山さんの癖に」
「ああァ!? 何だリンテメーやるってのかケツ出せやケツァー!」
「川北、こういうロクでもない人間には染まるなよ」
まだもうしばらく、人は来なさそうだ。ただ、今日は先輩たちのおかげでこの時間も退屈しないだろうなあ。
end.
++++
ミドリの変人耐性がどんどん強くなっている頃合い。インターフェイスでもどんどん強くなるだろうからそのうちちょっとやそっとの変人には驚かなくなるんだろうなあ
今はまだまだ閑散期のお仕事と時給のバランスがおかしいと思っているだろうけど、それもそのうちわかってくるんだろうなあ、どういう風に構えるかを……
ちなみに。春山さんはああ見えて意外と単位関係のことはしっかりしている人。留学もしているのでその辺の計算はしーっかりしているよ!