「監査、これはどういうつもりだ」
「見ての通りです」
部長の日高からひっそりとした部室に呼び出されれば、問い詰められるのは丸の池ステージのタイムテーブルについて。
丸の池ステージというのは丸の池公園のステージを借りて2日間に亘って行われる夏のイベントで、星ヶ丘大学放送部で最も大きなイベントと言っても過言ではなく。
そのタイムテーブルを決めるのは、監査の私に全ての権限が与えられている。私の思うように決めることを確かにこの癌細胞は了承したはずなのに、今更何よ。
「朝霞班の枠が大きすぎる。本当なら枠自体やりたくない」
「ですが、部長は私が枠を決めることに了承されたはずです」
「そこはお前、空気読めよ」
私は基本的に部内での思想より実力を重んじてタイムテーブルを決めている。だけど、そういうのが通用しないのがこの部活の体質。
言ってしまえば、実力なんかなくたって幹部に媚を売っていればある程度の世渡りは出来る部活。この無能はそれで騙せても、私は誤魔化されないわ。
次のポストを狙うだけの屑は容赦なく切らせてもらった。夏の枠欲しさにすり寄って来た連中にも、馬鹿にはわからない程度の制裁を枠の中に与えてある。
その点朝霞班はステージに貪欲で、私の贔屓目ではなく実力もある程度はある。この部活で生き抜くことに全てを懸ける、退路を断った獣たちは強いわ。
「朝霞班に1日1時間、それが2日間で2時間か……いややっぱりもったいないだろ」
「私はそれが妥当だと判断しました」
「そもそも朝霞班とウチの班が同じ、いや、班の規模を考えるとウチの班が朝霞班以下の扱いになってるとかどう考えてもおかしい」
いちゃもんを付けさせたらキリがないこの男に付き合う時間が無駄なのよ。ただ、私だって決して無策ではないわ。要は、この男が納得するような方便を並べ立てればいいだけのこと。
「部長」
「あ?」
「部長は、朝霞班が1日1時間、それを乗算すること2日間2時間のステージに耐え得るとお考えですか?」
「もっとわかりやすく言え」
「朝霞班が2時間のステージをやれると思いますか」
「ははーん、なるほど。はっはっ、朝霞班に2時間もやれるワケないもんな。そのうち泣きながら枠を返してくるという手立てか」
計算通りの馬鹿ね。ただでさえファンフェスで燻ったあの朝霞が、やっと掴んだステージの枠を返すなんてそれこそ除名処分にでもしない限りあり得ないわ。死んだって地獄から蘇るに決まってるもの。
「監査も人が悪い。はっはっ、失礼。空気を読めなんて。幹部の手を汚さず朝霞班から枠を奪う手立ては出来てたんだな」
「部長、タイムテーブルはこれでよろしいですか」
「ああ、問題ない。これで行こう。そうとなったら各班長に伝えてくれ」
「わかりました」
部活全体のことを考えるなら、外での大きなイベントは実力のある班に枠を与えた方が今後に繋がる、そう思わない?
何がどう間違っても、言ってしまえば日高のような屑連中がぐだぐだとしたお遊びで何時間も壇上を独占するなんてことあってはいけないの。
私はやれない班に枠を与えるなんてことは端からしないわ。朝霞班に限らず、やれる分の枠を平等に与えたつもりよ。日高班の枠が、規模の割に少ないのも察して欲しい物ね。
end.
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朝霞Pゾンビ説。もとい、星ヶ丘の暗部と丸の池ステージのあれこれのお話。まさか日高と宇部Pだけで話をやる日が来るとは
宇部Pの動きが少しずつ見え始めたところで、監査・宇部恵美の真意はどこにあるのかという部分。ただのクソみたいな幹部とは違う、のか?という部分をやりたい。
そして星ヶ丘ではここから8月のアタマまで丸の池に向けた動きが加速していくよ! つばちゃんは夏合宿も同時進行で朝霞Pは定例会の夏イベントと同時進行だ!