「越谷さん、飲みましょう」
「お、おう。それはいいんだけど、お前まさかその状態で来たのか」
目の据わった顔はうっすら赤く、手には酒瓶。いつも提げてるワンショルダーバッグも何が入っているのか知らないけどパンパン。臭いでもわかる、2軒目の様相。
「さすがにチャリは押してきました。最近チャリの法律変わったじゃないですか」
「あ、いや……まあ、上がってくれ」
「お邪魔します」
時刻は夜の12時を回ってすぐ。こんな時間に連絡もなしに人の部屋に来るとか何考えてんだと思うけど、朝霞は元々そういうタイプではない。俺ならともかく。
事情がありそうだから追い返すのも難だし、酔ってるし。とりあえず部屋に招き入れ、酒瓶を支えにすとんと座ったままの朝霞の目の前で手をひらひらと振ってみる。
「お前、ここに来る前も飲んでただろ」
「源が誕生日で現在に至ります」
「いろいろ端折り過ぎだ」
しかしまあ情報が少なすぎる。端折り過ぎだと苦情は出したものの、それを説明してもらえることもなくそんなことはいいからグラスを出せと言われる始末。
適当なグラスを出すと、朝霞はカバンから好きなのを出せと言う。いや、つーかお前が手をかけてる美味そうなそれは何なんだそしたら。杖替わりか。それがないとバランスを保てないのか。
「はい、かんぱーい」
「かんぱーい」
朝霞のカバンからはチータラをはじめとするつまみなんかも出てくるし、戸田のウエストポーチかと思うくらいにはいろんな物が入っていそうだ。
「越谷さんおめでとうございます」
「お、サンキュ。そういや俺も今日か」
「今週は班が浮かれモードでした」
「だろうな。洋平と戸田も1日違いだもんな」
「で、源、越谷さんと続きますからね」
そう、さっきからチラチラと出て来るその単語だ。人名であることには違いないだろうけど、あたかも俺が知ってること前提、それかお前が知らなくても俺がわかってればいいみたいなことなのか。
「朝霞、その源っていう謎ワードについてまだ説明してもらってないぞ」
「ウチの班に加入した1年のミキサーです」
「マジか! つかこの時期にもう班とパート確定してるとか早くね?」
そういうことをサラッと言いやがるのはシラフの時でも変わらないと言えば変わらないけれどもだ。まあ、何はともあれ流刑地班に来てくれる1年生がいるのは素晴らしい話だ。問題は、そのきっかけ。
「初心者講習会で戸田が一本釣りしてきました。他校の奴とばっか喋ってたとかで。パートについては元々鳴尾浜の世話になってたらしいので、その影響かと」
「あー、シゲトラんトコか。ならすんなり班に入るのもわかる気がするわ」
「一応脅したんですけどね、ウチの班はアレだぞとは」
「動じなかったか」
「全部捲られました。鳴尾浜のアホが変にプラスの情報で洗脳するから」
「まあ、嫌がられるよりいいだろ」
間違いないですね、と朝霞はグラスを一気に傾けた。班長としていろいろ溜まっていたのか、酒瓶を杖にしたまま愚痴やら今後の展望やらを語り続ける。
朝霞も浮かれモード、と言うには少し違うかもしれないけど、俺がどうこうは口実なのだと察するまでにさほど時間はかからず。
何でもいいから理由をつけて、事情のわかる相手と喋りたい。そういうことなのだろう。朝霞がそのつもりなら、俺も敢えて火を近付ける。
「朝霞、丸の池の枠はもらえたのか?」
「聞いてくださいよ越谷さん。1日1時間×2日の、2時間です!」
「おっ、マジか! どうやったんだ?」
「それがですね――」
夜はまだ長い。膨らんだカバンが元の形を取り戻す頃には、朝霞のガス抜きも済んでるといいけど。
end.
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ゲンゴロー誕からのこっしー誕なのですが、どうやらこっしーさんのお部屋には朝霞P単身で乗り込んだ様子。先輩の家をハシゴかい
そしてちょいちょい気になって来たのが朝霞Pと世界のシゲトラの関係である。朝霞Pはシゲトラをアホアホ言っているようだけどもw
こっしーさん、結構面倒見がいいのかもしれない。まあ、いいんだろうけど朝霞Pのガス抜きが出来るのはこの人だけなんだろうなあ。